1:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:42:22.76 ID:MlpcfRuf0
「台無しよ」
「全部全部、何もかも全部を台無しにするの」
「あなたの全部を……私は……」
カルデアのマイルーム。電灯の光は消され、蝋燭の淡い光にぼんやりとだけ照らされた部屋の中。そこへ僕は彼女と二人で共にいた。
ジャンヌオルタ。かつて訪れた特異点で敵対した竜の魔女。数々の特異点でその力を奮ってくれた大切なサーヴァント。人理修復を成した後、この今になってもその身をここへ置いてくれている彼女。彼女と二人……他に誰もいない二人きりで、僕は今ベッドの上へ身体を横に寝かせている。
「あなたが用意してくれた何もかも」
「このドレスも、この花束も、この水も」
「全部台無しにするのです。……しなければいけないのです」
新宿で纏っていた黒のドレス。特別に再現して仕立ててもらって、そうして今日僕から贈ったそれ……所々が破け、内に秘めた陶器のように真白い肌を隠せずにいるそれを纏った彼女。
皺を作って乱れたシーツ。鮮やかな赤色……カーネーションの花弁を幾重にも散らしながらぐちゃ、と乱れたシーツの上。そこへ僕は横になって……彼女に、身体を押し倒されていた。
「ほら、私を見なさい」
「そう。見て。逸らさないで口を開けて」
「口です。開けて。……いいからほら、開けなさい」
「台無しにしてあげる。これもまた、この水も台無しにしてあげますから……」
頬へ添えられた冷たい手、まっすぐ一途に注がれる潤んだ瞳、投げ掛けられる声に促されて口を開く。
抵抗は無駄。身を捩って震わせて……そうして逃れようとする僕の抵抗は彼女の前では無駄なのだと、それはもう教え込まされてしまっている。押さえ付けられて、のし掛かられて、僕はもう逃れられないのだと。
だから僕は言われるまま。少しの躊躇の後、抵抗はせずに開いてみせて。彼女の求めるまま身を許す。
「丹念に時を重ねて絞られた、心地のいい温度へと冷やされた、この時のためにあなたが用意してくれたこれ」
「これも台無しに……。余計な不純物を混ぜ入れて、心地いい冷たさを無惨に奪って……そうしてあなたへ贈りましょう」
「口移しで、飲ませてあげます……」
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:43:57.12 ID:MlpcfRuf0
開いて晒した口の中へ生温い水が注がれる。
透き通るようだったはず。けれど今は半分濁った粘り気のあるそれ。一度彼女の中で泡立てられたその水が、僕の中へと入ってくる。
初めはだらだら、と。握った拳を一つ間へと置いたくらいの距離、それを開けた上から垂らされて注がれて。やがて直接、唇を重ねながら送られる。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:45:21.47 ID:MlpcfRuf0
静かにそっと、壊れ物を扱うような繊細さで頬を何度も撫でられる。
胸は胸。腹は腹。足は足。それぞれ互いの同じ部分を重ねて……顔も、吐息が混ざり合うくらいのすぐ傍へと重ねながら。
撫でられる。何度も何度も。交わした視線は結んだまま。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:46:07.32 ID:MlpcfRuf0
「……私は違う。他のサーヴァント達とは違う。過去の無い泡沫の存在。積み上げた歴史を持たない空虚な贋作。偽物の復讐者」
「だから届かない。どれだけ手を伸ばそうと、どれほど叫びを漏らそうと私はあなたに届かない」
「何をしようと私は贋作。何をしようと私は復讐者。憎悪に塗れた偽りの存在としてしか、私は結局いられない」
5:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:47:05.45 ID:MlpcfRuf0
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6:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:48:52.77 ID:MlpcfRuf0
それが今は二人きり。素直になれない姿を見かねたジャンヌダルクがどこからか……きっとダヴィンチちゃん辺りなんだろうけど、どこからか手に入れて持ってきた小瓶。「せっかくの機会なのですから」と差し出されたそれを受け取った彼女は数分の問答の後に飲み干して。そしてそれからすぐ、僕の手を引いてこのマイルームへと連れ込んだ。
鍵は掛けられずに空いたまま、入ろうと思えば誰でも入れてしまうこの部屋の中。けれど連れ込まれてから今この時まで、ここへは他の誰も入ってきていない。きっとわざと二人きりにしてくれているんだろう。もしかしたら扉の向こうで聞き耳を立てられているのかもしれない。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:50:02.11 ID:MlpcfRuf0
「叶うことを夢見て、たとえ叶わなくてもあなたの未来へ私を……望まれない影という形であってもいい、忌避される呪いとしてでも構わない、あなたの未来へ私を刻む」
「あなたにとっては迷惑な話でしょうね。私に想われたばかりにこれからの未来を穢されて。全部全部を台無しにされて」
「でも駄目。もう取り返しはつきません。潔く諦めてください」
8:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:50:57.62 ID:MlpcfRuf0
額に。瞼に。鼻に。頬に。唇に。
キスが降る。胸を通して伝わってくる早く大きな鼓動と同じ荒い吐息を供にして、何度も何度もキスが降る。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:51:39.33 ID:MlpcfRuf0
「何かしら。不満かしら抗議かしら否定かしら。私を受け入れたくないと、そういうことかしら」
「オルタ」
「いいわよ、構いません。存分に拒んでください。無情に撥ね退けてください。それでも私は変わらない。あなたを想うまま、あなたのことを台無しにするのはやめません。私があなたを愛することはあなたにも止められませんから」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:52:25.26 ID:MlpcfRuf0
抱き締めたまま。後に「君を愛おしいと想うことを愚かだとは思わないけど」と添えて。頬へ触れた手の小さく震える感触を確かめながら、まっすぐはっきり紡いで言う。
目の前の彼女はしん、と。数度むぐむぐと口を動かしながらも言葉は出さずに数秒沈黙。少しして、その沈黙を経てからぽつりと。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:53:02.56 ID:MlpcfRuf0
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12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:54:26.69 ID:MlpcfRuf0
「もし飲んでいなくても、君に嘘を吐くようなことはしないけど」
「……」
「……」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:55:05.41 ID:MlpcfRuf0
目を瞑る。
それまで一度も切れることのなかった視線が伏せられる。静かに目を瞑り顔を伏せて、一旦そうして間を置いて。
それからそっと近付いた。空いていた距離が詰められて、重なる寸前……もうほとんど触れ合っているくらいの傍まで顔が寄せられる。そしてその状態で、吐息を混ぜ合い想いを贈り合いながら。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:56:39.47 ID:MlpcfRuf0
以上になります。
マシュ「恋仲の貴方ともう少し先へ」
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15:名無しNIPPER[sage]
2017/10/08(日) 23:31:03.45 ID:M9RS3Rx0o
乙
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