10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/10/08(日) 16:52:25.26 ID:MlpcfRuf0
抱き締めたまま。後に「君を愛おしいと想うことを愚かだとは思わないけど」と添えて。頬へ触れた手の小さく震える感触を確かめながら、まっすぐはっきり紡いで言う。
目の前の彼女はしん、と。数度むぐむぐと口を動かしながらも言葉は出さずに数秒沈黙。少しして、その沈黙を経てからぽつりと。
「……嘘です」
零すように言った。
ゆら、と揺れる瞳を向けながら。
「嘘じゃない」
「嘘です」
「本当だよ」
「……」
「……」
「……嘘じゃなく、本当に私のことを受け入れたいと?」
「そう」
「私を好きだと? 私を愛していると? 私を選ぶとそう言うのですか?」
「そうだよ。……オルタが好きだ。嘘じゃない。今の僕に嘘は吐けないから」
「吐けない……?」
「オルタと同じだよ。飲ませてくれたから。君が僕に口付けてくれたから」
飲み下した残り。口の中へと残されていた僅かな雫の分だけ。けれどそれは確かに効いていた。口移しで注がれた水、それへ混ざった薬が効いているのを確かに感じる。
僅かな残りだけ。だから目の前の彼女ほど効いているわけじゃない。嘘を吐けなくなる。嘘を吐こうとは思えなくなる。少し後押しをされるような、普段よりも想いを口にしやすくなるような、そのくらいのもの。
それを受けて言葉を紡ぐ。揺れながらもまっすぐ一途に向けられる彼女の瞳、それを同じくまっすぐ見つめ返しながら。
15Res/17.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20