4:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:29:30.23 ID:4sMggCAno
幸子は遠慮がちに、びくびくしながら部屋へ足を踏み入れた。
机と椅子、それと一つの本棚が置いてある他には何もない、殺風景きわまりない空間である。
窓は一つしかなく、それがすりガラスになっているために部屋の中はにぶい光が散乱していた。
5:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:31:04.50 ID:4sMggCAno
さて、幸子が改めてこの貧相な部屋を調べてみようと振り返ると、ふと本棚の一冊の本が目に入った。
幸子はそのボロボロの背表紙を見て、どこかで聞いた覚えのあるタイトルだと思った。
しばらく考えて間もなく合点がいった。
6:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:32:02.61 ID:4sMggCAno
――しばらく経って、幸子は自分を呼んでいる声が聞こえてハッと顔を上げた。
我に返って返事をすると、母親が開け放したドアから顔を出しながら驚いたように目を丸くして言った。
「まあ、こんな所に。もうすぐお昼ご飯できるから下に降りてきなさい」
7:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:33:34.59 ID:4sMggCAno
◇ ◇ ◇
都会ではそれなりに売れっ子のアイドルをしていた。
8:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:34:36.58 ID:4sMggCAno
そこで幸子が最初に取り掛かったのは家事のお手伝いであった。
帰郷して二日目、幸子は夕飯の支度をしている祖母と母の元へ行き、意気揚々と「ボクも手伝いますよ!」と宣言した。
以前、とあるテレビ番組向けに特訓したこともあり、調理には自信があったのである。
9:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:35:53.45 ID:4sMggCAno
朝、祖母にやさしく揺り起こされて目が覚めた。
前日の夜、居間でぐっすり寝入っていた所を家族の誰かが布団の上まで運んだらしかった。
「もうじきラジオ体操始まるけ、さっちゃんも行くかえ?」
10:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:36:48.40 ID:4sMggCAno
ラジオ体操が終わる頃にはすでに額に汗が滲んでいた。
幸子は一息つきながら、空き地から人がまばらに去っていくのをどこか釈然としない気持ちで眺めていた。
釈然としない気持ちというのはつまり、「どうしてみんなアイドルの輿水幸子に気が付かないのか」という疑問である。
11:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:37:45.96 ID:4sMggCAno
家に帰ると母が起きてすでに朝食を用意していた。
幸子はまたもや自分が手伝いをする機会を逃したことを悔やんだが、代わりにまだ寝ている父親を叩き起こすという使命を与えられて喜んで寝室へ向かった。
哀れな父親は娘に馬乗りにされ、ほっぺをぐりぐり引っぱられ、終いには布団をひっくり返された挙句ようやく起き上がった。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:38:30.85 ID:4sMggCAno
その後、幸子はしばらく休憩してから、地面に散らばった刈り草を集めて荷台まで運ぶ手伝いをした。
この作業もそれなりに大変だったが、刈られた草は日照で乾いて軽くなっていたので幸子ほどの体力があれば十分こなせる仕事であった。
一方祖父はさして疲れた様子も見せず黙々と草むしりを続けている。
13:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:39:49.16 ID:4sMggCAno
◇ ◇ ◇
昼過ぎ、陽が高くなって庭中に熱気がこもるようになると、風通しのいい屋敷もさすがに蒸し暑くなった。
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