7:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:33:34.59 ID:4sMggCAno
◇ ◇ ◇
都会ではそれなりに売れっ子のアイドルをしていた。
幸子は見た目こそ背丈のちっこいあどけない少女だったが、根性と自意識においては並みの中学生の比ではなかった。
加えて両親に溺愛されて育ったものだから時々呆れるほどの自惚れを発揮することがあった。
しかし彼女は自分を尊敬するのと同じくらい他人を尊敬できる心の持ち主だったので、身内に限らず多くの人から好かれた。
堅牢そうに見えて実は隙だらけなプライドも、時に侮られやすいという欠点があったが、それがかえって嫌味を感じさせず、親しみやすい印象を与える一因になっていた。
アイドルとしては申し分ない天性を備えていたと言える。
そんなお茶の間の人気者も、山と森と川以外に何もないような田舎では発揮すべき天性など有って無きが如しである。
幸子の父方の祖父母は彼女の両親に負けず劣らず孫娘を溺愛していたが、なにぶん感性が古く、流行にも疎いので「あいどる」という概念をいまいち理解していないようだった。
一応、幸子が出ている雑誌などはすべて取り寄せて屋敷に飾ってあり、CDも全部揃えてあるが、孫娘がなぜそんな風に綺麗な格好をして歌をうたっているのか、その理由は考えたこともないらしかった。
この老夫婦は、とにかく自分の孫が可愛ければなんでもいいのである。
結果として、幸子はどこまでいっても「私たちのかわいいさっちゃん」として扱われた。
幸子は特別それを不満に感じていたわけではない。
しかし内心、アイドルとして頑張っている自分も少しは認知してほしいという思いがあったのも事実である。
普通の十四歳であれば、ここでちょっと拗ねてみたり反抗期をこじらせたりするものである。
ところが幸子はなまじ負けん気が強い上に性根がポジティブだったので、自分がいかにアイドルという厳しい世界で鍛えられてきたか、その成長ぶりを今こそ証明するべきだと考えた。
つまり、幸子はこの夏休みの田舎暮らしを、「カワイイだけではない、しっかり者のさっちゃん」を実践する試練だと捉えたのである。
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