【モバマスSS】世にも奇妙なシンデレラ
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268: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:21:44.54 ID:ktVirj9S0
 加蓮は浴槽に張ったお湯に手を浸し、その温度を確認した。
 少し熱いかな? と思い、水を継ぎ足しながら、差し込んだままの手でゆっくりとお湯をかき回す。
 水を止め、なまぬるくなったお湯から手を引き抜く。たぶんこのぐらいでいいだろう。
 浴槽のふちをまたぎ、普段入浴するときよりは少なめに張ったお湯に身を沈める。
 底面におしりをつけ、脚を伸ばすと、おへその上あたりまでぬるいお湯が上がってきた。かすかに揺らぐ水面が肌をなでているようで、少しこそばゆく感じた。
以下略 AAS



269: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:22:53.39 ID:ktVirj9S0
 自宅の浴室であることは間違いない。だけど、なぜかタイル張りの床が見えた。それから浴槽が見えた。
 浴槽には人が入っていた。加蓮だった。
 加蓮は、加蓮を上から見下ろしていた。

 思わず悲鳴を上げた。
以下略 AAS



270: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:24:20.17 ID:ktVirj9S0
「あら加蓮ちゃん、半身浴やってみた?」

「あー、あれ一応やってみたんですけど、すごい汗かいて、しばらくぐったりしてましたよ、あはは」

「体力を消耗するものね、わかるわ。最初のうちは短い時間から慣らしていったほうがいいわよ」
以下略 AAS



271: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:25:18.92 ID:ktVirj9S0
 つぶやいた声は声にならない。
 恐怖がぶり返しそうになるのを必死に抑えながら、目の前に手を持ってくる。手は見えなかった。
『あっちに動こう』と念じる。視界はするすると空中を泳ぐように移動した。
 動いた先は洗い場の鏡の前。鏡には浴室の、後方の壁が映っていた。
 なるほど、透明人間ってことだね。
以下略 AAS



272: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:26:11.95 ID:ktVirj9S0
 しばらく辺りを飛び回った加蓮は、浴室で眠る自分の体に戻った。前回と同じく、なにごともなかったように、ただ時間だけが経過していた。
 お湯から上がり、浴槽のふちをまたぐときに若干体がふらついた。意識が離れているあいだも肉体はずっと半身浴の状態にあったから、長くお湯に浸かりすぎたのだろう。時計を見ると開始から30分が経っていた。

 じっとりと汗をかいた全身をシャワーで流し、浴室を出る。
 髪を乾かし終える頃には、もう指一本も動かしたくないほど疲弊していた。
以下略 AAS



273: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:27:17.70 ID:ktVirj9S0
 翌日になっても疲労は抜けきらず、加蓮はレッスンで多くのミスをやらかし、トレーナーから散々に怒られた。

「調子、悪いのか?」

 レッスン終了後、加蓮と共にレッスンを受けていた奈緒が問いかけた。
以下略 AAS



274: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:28:31.35 ID:ktVirj9S0
 加蓮はレッスンでの反省を踏まえ、離脱は3日以上の間隔を置くこと、時間は最大でも30分までとルールを定めた。いくら楽しいからといって、アイドルの活動に悪影響は与えたくない。
 それと、離脱中はきっと、なにをされても起きることはない。たとえばお風呂の外から家族に呼びかけられた際に、全くの無反応では心配するだろう。戻ってきてみたら本体が病院に担ぎ込まれていたなんて事態にもなりかねない。
 だから、離脱をするのは家の中でひとりきりのときだけと決めた。加蓮の母は専業主婦であるため、チャンスはそう多くない。自然と『3日以上の間隔』というルールにも合致した。

 何度か試してわかったのは、最大の飛行速度はだいたい全力で走るのと同じくらい、ただし長時間飛んでいても疲れるということはないので、結果的に走るよりもずっと速い。
以下略 AAS



275: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:29:22.83 ID:ktVirj9S0
 最初のような感激こそ徐々に薄れていったものの、空を飛ぶというのは、他の何物にも代えがたい快感だった。

 解放されて初めてわかった、人間というものは苦痛に苛まれながら生きている。常に、絶え間なく。
 体の重さ、呼吸をする苦しさ、それから痛み。
 生まれてからずっとそうだから気にならないだけで、人間は、生きているというだけでいつも痛みを感じている。それは健康であってもだ。
以下略 AAS



276: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:30:21.91 ID:ktVirj9S0
 加蓮は、ふだんは立ち寄ることもない駅の前を、上空から見下ろしていた。
 少し経って、ひとりの男性が改札口から出てくる姿が映る。それは加蓮の担当プロデューサーだ。
 急な残業とかはなかったみたいだね、よしよし。

 何日か前、ちょっとした世間話に交えて「プロデューサーって、どのあたりに住んでるんだっけ?」と訊いてみた。
以下略 AAS



277: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:31:12.47 ID:ktVirj9S0
 へえ、意外と綺麗にしてるんだね、というのが第一印象だった。
 しかし、よく見てみるとそれは、片付いているというよりは物がない。物がなさ過ぎて散らかしようがない、という部屋だった。
 そこそこ広めのワンルーム、だけどせっかくの面積を無駄にするように、机がひとつと小さなタンスひとつ、あとはベッド、それしかなかった。備え付けのクローゼットが開いていて、ワイシャツやスーツが掛けられているのが見えた。机の上にはノートパソコンが乗っている。つまり最低限の衣類とパソコンしかない。
 いかにも、寝に帰るだけの部屋という感じだ。日頃から「仕事が恋人」と言っている彼らしいかもしれない。

以下略 AAS



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