269: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:22:53.39 ID:ktVirj9S0
自宅の浴室であることは間違いない。だけど、なぜかタイル張りの床が見えた。それから浴槽が見えた。
浴槽には人が入っていた。加蓮だった。
加蓮は、加蓮を上から見下ろしていた。
思わず悲鳴を上げた。
上げたつもりだった。
しかし、「きゃあ」とも「わあ」とも、発したはずの声は出ていなかった。
――なにこれ!? どうなってるの!?
そう叫んだつもりの声も、やはり空気を震わせることはない。
真上から見下ろすようなアングル、この視点が本当なら、今自分のいる位置は天井付近だ。つまり、浮いているということになる。
そんなことってある?
戻らないと、と思った。状況がわからず頭は混乱していたが、視界は意思の通りに、浴槽の中の加蓮に向かって移動していった。
体当たりでもするように、もうひとりの自分に突っ込む。一瞬、頭の中が白く光った気がした。
ぱちりと目を開く。見慣れた浴室の風景がそこにあった。
下半身にお湯のぬるさを感じ、深い眠りから覚めたように五感が働き始める。
胸に手を当てる。どくんどくんと早めの鼓動が伝わってきた。
……生きてるね、うん。
お湯に浸っていない上半身からは汗が流れていたが、半身浴の効果ではなく、今この瞬間にドッと湧き出たような気がする。冷や汗というものだろう、これは。
加蓮はシャワーで軽く体を流し、浴室を出た。
視界の端にちらりと映った時計には『17:55』と記されていた。
動悸はしばらく治まりそうにない。
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