202:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:29:07.15 ID:yoGsi3kr0
一年十カ月前……吹雪中佐が前任司令官とケッコンする一年前のことである。中佐に何かあったのだろうか。
「ちと辛いことって……?」
「まぁ、端的にいえば、大切な人を亡くしたんですよ」
「……それは艦娘……?」
203:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:30:31.95 ID:yoGsi3kr0
中佐は白波の少し立つ宇和の海を眺めながらそう言うと、吸っていた煙草を口から離した。その表情はすこし、不安そうにも見えた。
「中佐、本題というのは……」
「本題というほどのものじゃあないですよ。ただ、今夜は時化るかもしれないから、少佐は早く帰って中にいた方がいいと伝えたかっただけです」
204:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:31:12.78 ID:yoGsi3kr0
「――少佐、これからが少佐の手腕が試されるときです。色々あると思いますが、頑張ってください。私も応援してますから……」
明石中佐は私の背中をそっと押すように言う。私は振り返らずその場で小さく頷くと、その場をあとにしたのであった。
205:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:33:04.93 ID:yoGsi3kr0
司令室に帰ると時刻は既に二十一時五分前となっていた。
三階に昇るとき、二階の奥の部屋を見たが、五月雨や妹はいなかった。
206:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:33:55.41 ID:yoGsi3kr0
――と、その時だった。
机の上の簡易無線機がモールス信号を受信した。
これは…………救難信号ではないか!
207:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:34:41.07 ID:yoGsi3kr0
しかし、救難信号を受信している途中に、階下から悲鳴にもとれる五月雨の怒鳴り声が私の耳を突き刺した。
「だめええええええっっ!!! ぜったい、だめええええええっ!!!」
このタイミングで、明石中佐の懸念が的中してしまった……。最悪なタイミングだ。
208:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:35:32.45 ID:yoGsi3kr0
「司令、来たんですね。北上さんを止めてください」
「……北上との約束なんだろ?」
「……」
209:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:36:24.25 ID:yoGsi3kr0
「やっぱり、司令は私の味方じゃないんですね。大好きな妹さんの味方なんですね」
「そんなことない、五月雨の事も味方だ! 味方だから…………っ!」
私は必死の言葉でそう伝える。しかし、五月雨の焦点は後ろの妹にあっていた。
210:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:37:11.42 ID:yoGsi3kr0
「ごめんなさい。でも、私はこれだけは譲れません。これからも司令と北上さんと仲良くしたいから……。北上さんと司令にはこのことを分かってほしいです」
私はそう言われ何と返せばよいか戸惑った。
理由は分からないが五月雨もまた、明石中佐と同じように自分に心のバリアを二重三重に張っている。
211:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:38:05.25 ID:yoGsi3kr0
「――――豊後水道沖夜戦事件」
妹から発せられたその言葉に私は反射的に立ち止まる。な、なぜ妹がそのワードを!?
「五月雨ちゃん、その事件の生き残りなんだってね」
212:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:39:36.07 ID:yoGsi3kr0
「あの〜、北上さん、吹雪さんの指輪を借りたことと涼風に何の関係があるのかな?? あと、私のことを犯人にするのやめてください! 私はネックレスの事は知りませんから」
「……知らないフリをしないで! 私は五月雨ちゃんの事ぜんぶ聞いているの。五月雨ちゃんが部屋に入れてくれないことも何となく分かってるんだよ!」
語気を強めて問い詰める妹に、五月雨は黙る。
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