3:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 18:08:31.15 ID:pTAgI72RO
勇者の試験会場は街の外れにあった。迷路のように入り組んだ路地裏を抜けて、西の監視台を登る。最上階まで登ったところで、一人の老人が掲揚旗の下に座っているのが見えた。
夕陽が老人を照らし、彼の影法師が飴みたいに後ろへと伸びている。幻想的だ。
ユ「おい、てかなんで俺しかいないんだ」
4:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 18:35:47.05 ID:pTAgI72RO
ユ「分かったよ! 勇者の末裔でいいよ面倒くさいな! 勇者の末裔な! はいはい!」
だが、俺は老人以外の場所では勇者と名乗ることを決めた。だって勇者と言ったら、年収ガッポガッポなんだろう? 他の奴らからも尊敬の眼差しで眺められるんだろう? 名乗っておいて損はないはずだぜ。
勇者「魔王を倒すには、どこへ行けばいい」
5:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 21:35:32.02 ID:pTAgI72RO
老人を殺した俺は、ひのきの槍を背負ったままヒース咲き乱れる原野を駆けていった。なだらかな丘陵の端に、夕陽の欠片が消えていく。
待ってくれ、松明も無いんだぞ。真っ暗な夜を越せるわけがないじゃないか。俺は勇者だってのに、何てザマだ。先祖に顔向けできないぜ。
勇者「腹が減った……。くそッ! あのジジイ、鼠の尻尾しか持っていなかった。こんなの、どうやって食えばいいんだよ!」
6:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 22:32:26.39 ID:pTAgI72RO
跳び上がった騎士は剣を真っ直ぐ振り下ろしてきた。俺がスイカなら、きっとパックリ綺麗に割れてるんだろうな。だが俺は人間だ。人間には、回避行動という選択肢がある。
勇者「トロいんだよアホッ!」
三十六計逃げるに如かず。騎士の重い一撃を横っ飛びで避けた俺は、背中を見せてスタコラサッサのスタコラサッサ。足の速さだけには自信がある。騎士は重装備だから、そう俊敏な動きはできないはずだ。
7:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 23:17:55.82 ID:PrYnNBSy0
暗い。光も世界も今が昼だか夜だかもさっぱり分からない。
パチパチと火の爆ぜるような音が聞こえる。誰かが焚火をしてんのか?
指や足は全く動かない。磔の刑にされた感じだ。いや、磔はもっとキツイよな。
とにかく、どんな形にせよ俺は生きてる。流されて、偶然どっかの川岸に流れ着いたんだな。
これが幸運と取るべきか不運と取るべきか、まだ判断しかねるぜ。
8:名無しNIPPER[saga]
2017/07/03(月) 23:40:54.89 ID:PrYnNBSy0
???「あんた、王都から来たんだろう? 王都から出る旅人はみんな、ホショ・ツァイダム川を渡河するんだ。必ずと言って差し支えないほどにね」
勇者「ホショだか何だか知らないけどな、俺は川を渡るつもりはなかった。鎧を着こんだ不審者に着け狙われて、川に落ちたんだ」
???「ハッ、バカだねぇ。あんた所持品は流されちまったみたいだけど、職業は何をしてたんだ?」
9:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 00:26:50.96 ID:OBhwihw10
ようやく目が見えるようになった。樹々の隙間から差し込む暖かい光は、きっと朝陽のものだ。
俺は昨日の夕方から今朝までずっと眠りこけていたんだ。はあー、情けないったらありゃしねぇ。
身を起こすと、俺は皮張りのベッドから飛び降りた。よくもまぁ、動物の皮と骨だけでここまで立派な寝床が作れたモンだよ。
あの少女は一体何者なんだ?
10:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 09:10:11.06 ID:z7qpNiwHO
アイシャ「魔王の居場所ねぇ……その前にひとつ、あたしの頼みを聞いちゃくれない? あんた、勇者様なんだろ?」
勇者「ああ、いかにも。ところで図々しいとは思うけどさ、腹が減ってるんで飲み食いできる物はあるかい?」
アイシャ「もちろんあるよ。依頼料と考えれば安いものさ。ついてきな!」
11:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 09:55:13.29 ID:z7qpNiwHO
アイシャ「あたしを金持ちにしてくれ。それはもう、豪邸が何件も立つ程の大富豪に」
勇者「はっ?」
両手を大きく振り上げて説明する女狩人を、俺はぼんやりとした目で見つめていた。こいつは何を言っているんだ? そんなランプの魔神にするような願いを俺に頼んでどうする。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/07/04(火) 12:59:05.20 ID:z7qpNiwHO
朝食を済ませた俺は、無性に小便がしたくなった。思えば昨日の朝から、一回も厠に行っていない。道理で股間の自己主張が激しくなったわけだ。俺はアイシャが笛を吹いていた岩に立ち、ズボンを下ろして用を足した。
小便の匂いにつられて、魚が集まってくる。イヤー、壮観壮観。仰げばパピプペポ山。
勇者「あれは山なのか? まるきり崖じゃん。急峻な断崖だよ! 滑り台としては0点だね!」
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