新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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66: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:02:06.07 ID:8ENUCYV1O

議論の余地はなかった。プロデューサーをこの部屋に呼んだのは議論するためでも意見を聞くためでもなく、命令するためだった。プロデューサーは美波が所属するプロジェクトの責任者であったからここに呼ばれたにすぎなかった。

専務室にはプロデューサーの直接の上司である今西部長もいた。彼は苦悩が痛覚を刺激しているような面持ちで沈黙を守っていた。今西には美城に言うことが理解できたし、プロデューサー言うことも理解できた。理解だけにとどまっていることが彼に痛みをもたらしていた。

以下略 AAS



67: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:03:39.37 ID:8ENUCYV1O

そのひとことがプロデューサーの動きを完全にとめた。雷に打たれたという表現がぴったりくる有様だった。美城専務はそんなプロデューサーの様子を気にもとめず言葉をつづけた。


美城「それに、新田美波本人が会見に出たいと言ったらきみはどうするつもりなんだ? 今回の事態に対する私の対処は美城プロダクションの専務取締役としてのものだ。私にはプロダクションに所属する従業員やアイドル、株主たちに対する責任がある。私はそれを放棄するつもりはない。新田美波にしても、アイドルとして活動を続けるのならなんらかの声明を求められるだろう。彼女にとっては家族の問題なのだから、どうしたってついて回ってくる。それくらいの自覚はあるはずだ。たいしてきみはどうなんだ? さっきの言葉は一従業員としての提言か? それとも、個人的な感傷による発言なのか?」
以下略 AAS



68: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:04:57.67 ID:8ENUCYV1O

駐車場ではコンクリート柱が陰鬱そうに光を吸収し、不吉な緑色に染まっていた。目に見えるほどの大きさの粒子が降り注いでいるかのようなざらついた雰囲気の空間のなかに戸崎たちが乗ってきた公用車はあった。駐車されているセダンはおとなしく動きをとめたまま、黒い車体のつややかさをアピールしていた。

会議が終了し、駐車場まで戻ってきた戸崎はこの光景に微かな違和感を覚えた。間違い探しをしているかのような感覚。類似した二枚の絵を並べて、ほんのわずかに異なる点を挙げる。どことはいえないがたしかに異なるところが駐車場の風景にはあった。

以下略 AAS



69: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:07:23.90 ID:8ENUCYV1O

戸崎「かまわん。懸賞金の噂は亜人の目撃情報を集めるのに役立つからいままで訂正してこなかっただけだ。彼女が記者会見で情報を呼びかけるというなら、懸賞金より効率的に集まるだろう」


戸崎は素っ気なくこたえ、下村に視線をむけた。
以下略 AAS



70: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:09:33.31 ID:8ENUCYV1O

戸崎が例にあげたのは、スーダンで活動する奴隷反対を使命のに掲げるとあるNGOのことだった。かれらは第二次スーダン内戦以降悪化する国内情勢のなか、暴虐をふるう民兵たちによって誘拐され、虐待され、奴隷として売り払われる人びとを救うために行動を開始した。

人間の尊厳と権利を守るためにかれらが最大の力をいれおこなったことは、奴隷の買取だった。不幸にして奴隷に身をやつした人びとを自由へと解放するのに、かれらは金で解決するならと、すすんで誘拐者や奴隷商人に金銭を支払った。役にたちそうにない奴隷でも、いやだからこそ、善意のかれらは金を支払うことをためらわなかった。そして買い取られた奴隷たちは自由になった。NGOの人びとの善意は満たされた。奴隷商人たちはあらたな上客ができたことをよろこんだ。需要があれば供給がある。システムに無理解な善意あるいは良心はこういうことを引き起こす。

以下略 AAS



71: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:10:56.51 ID:8ENUCYV1O

セダンは県境を越え、永井の家がある埼玉県へと入っていった。都心からはなれ、明かりもビルもかなり減っていたが、それでもまだ高速道路を走る車の数はまばらに存在し、セダンが車両を追い越したり、反対車線の車のヘッドライトがフロントガラスから飛び込んできたりした。

後方に流れていく車や光を眼鏡のレンズ越しに眺めながら、戸崎は駐車場での違和感に突然思いあたった。駐車場からビルへの通用口を警備する警官二名が不在だったのだ。

以下略 AAS



72: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:13:16.72 ID:8ENUCYV1O

美波は決断を下していた。すくなくとも、プロデューサーにはそう見えた。

じっと呼吸をこらえ海の底にでもとどまっているかのように、美波は応接室の革貼りのソファに、背中を丸めながら前を見て座っていた。頭の働かせるのに視線が役にたつと思っているのか、美波は正面にある誰もいないソファを凝視している。

以下略 AAS



73: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:14:25.81 ID:8ENUCYV1O

武内P「出席されるおつもりですか?」

美波「はい。反対なんですか?」

以下略 AAS



74: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:15:41.32 ID:8ENUCYV1O

美波は黙ったまま話を聞いていた。美波と対面するかたちでプロデューサーはソファに腰掛けていた。目の前の美波は顔をあげ、プロデューサーと視線を交えている。そこにあるのは綱引きのような緊張関係だった。美波はプロデューサーの協力を求めていたが、無条件になんでも受け入れることはできなかった。自分の意志が最大限に尊重されることが前提で、それが認められないなら別の人間に助けを求める意志があること彼女の眼は語っていた。美波の視線が鋭さと潤みを増すのを見てとりながら、プロデューサーは話を先にすすめた。


武内P「いちど拡散された情報は回収ができないどころか、恣意的な編集によって情報が歪められる恐れがあります。悪意をもってそう意図するわけではなく、ただ単に放送しやすくするためという理由でおこなわれた編集でもそういったことは起こりえるのです。すべてのメディアが内容にも配慮するという保証はありません。映像それ自体に重きを置いた加工がなされても、それは報道する側の自由なんです」
以下略 AAS



75: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:16:57.32 ID:8ENUCYV1O

美波「プロデューサーさんのおっしゃることはよくわかったつもりです。わたしの心配をしてくれていることも、いまの状況について冷静な意見をおっしゃてくれたこともわかっています。でも、わたしにとって、問題は圭がどう受け止めるかってことなんです。警察や政府の人たちが圭を追って、一般の人たちも大騒ぎしているとき、安全が保証されるから政府に保護されるべきだとニュースで報道されたとしても、それを信じるでしょうか?」

武内P「新田さんのおっしゃることなら信じてくれる、と?」

以下略 AAS



76: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 23:18:15.03 ID:8ENUCYV1O

武内P「私は、あなたのプロデューサーとして意見を述べたにすぎません。あなたが私の意見を聞き、そのうえで会見に出ると決断されたのなら、私はあなたを全力でサポートします。それが私の仕事です」


美波は鼻を啜り、とめていた呼吸を再開したかのように息を吐いた。潤みに満ちた声で、ありがとうございます、と礼を述べた美波に、プロデューサーはこう応えた。
以下略 AAS



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