633: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:59:54.95 ID:Wqc3ZOPPO
クラスメイトたちはみんな顔を伏せていた。そのなかに顔をまっすぐあげている子がいた。悲しみの群れのなかにひとりだけ強張って黙っている顔があった。その子は昨日アナスタシアに最初におはようと言った子だった。涙を流していなかった。噛み千切らんばかりに下唇を噛み締め、手のひらに爪が深く食い込むほど強く手を握りしめたが、それでも泣かなかった。泣くよりほかにするべきことがあるとでもいいいたげな表情。
彼女は遺影をまっすぐ見据えていた。棺の小窓は閉じられていたから、死んだ友達の顔を見るには遺影を見るしかなかった。瞳は潤んでいたが、眼には怒りの色があった。怒りの対象はもちろん佐藤に向けられていたが、その射程はもっと別の、遠くにあるなにかまで届いていた。
634: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:01:04.64 ID:Wqc3ZOPPO
その子を見たとき、アナスタシアは自分のやるべきことがわかった。
そしていま九月三日の午後、アナスタシアは自分の部屋で三人目の犠牲者が確認されたことを知る。スマートフォンを手に取り、発信する。ワンコールもしないうちに相手は電話に出た。
635: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:02:08.71 ID:Wqc3ZOPPO
アナスタシア「え、あの、もしもし?」
636: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:05:51.72 ID:Wqc3ZOPPO
その赤い自動車を見た瞬間、アナスタシアの記憶が刺激される。視覚の記憶は内側に、それだけでなく、耳で聴き、口で話し、舌で味わったことも思い出す。
いやまさか、と記憶を疑う。だってあの永井圭がこんな目立った失敗をするはずが……
637: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:11:11.84 ID:Wqc3ZOPPO
永井と中野は入口に突っ込んだ自動車を乗り捨て、病院のなかを突っ走っていた。
永井「中野! 戸崎とは一対一で交渉する、おまえは隠れててくれ!」
638: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:12:23.20 ID:Wqc3ZOPPO
病室は静かだった。
亜人のテロを警戒し病院側は患者を避難させ、いまでは職員の避難も完了している。建物の中には僅かな人間しかいない。
639: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:13:56.02 ID:Wqc3ZOPPO
永井「戸崎さん、あなたの顔なんて二度とみたくありませんでしたよ」
永井圭が緊張を抑えながら言った。
640: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:15:30.27 ID:Wqc3ZOPPO
永井「僕の幽霊は命令なしに暴走する。僕の意識が落ちてもひと暴れしてくれるはずだ。とくに、いちばん近いこの女性は……」
永井が肩に力を込めた。肩の位置が低くなった。視線は戸崎を睨んだまま、脅迫の意図を強める。戸崎の眼が殺意に細くなる。
641: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:16:46.91 ID:Wqc3ZOPPO
永井は反射的に人質から飛び退いた。両手を開いたまま突きだし、降参する寸前のようなポーズをとる。この行動は正解だった。逃避的に距離をとるための動作が、攻撃してきたのみ反撃しろと厳命された黒服たちの行動を一瞬遅らせた。
中野「永井! こんなことしなくていいだろ!」
642: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 21:18:25.40 ID:Wqc3ZOPPO
永井「日差しが差し込む教室、ホワイトボード、汗ばんだ手が、ノートに張り付く。静かで退屈だが、洗練されてた……こんなはずじゃなかっただろ、アンタも!」
戸崎「ああ! おまえらのせいでな!」
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