633: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:59:54.95 ID:Wqc3ZOPPO
クラスメイトたちはみんな顔を伏せていた。そのなかに顔をまっすぐあげている子がいた。悲しみの群れのなかにひとりだけ強張って黙っている顔があった。その子は昨日アナスタシアに最初におはようと言った子だった。涙を流していなかった。噛み千切らんばかりに下唇を噛み締め、手のひらに爪が深く食い込むほど強く手を握りしめたが、それでも泣かなかった。泣くよりほかにするべきことがあるとでもいいいたげな表情。
彼女は遺影をまっすぐ見据えていた。棺の小窓は閉じられていたから、死んだ友達の顔を見るには遺影を見るしかなかった。瞳は潤んでいたが、眼には怒りの色があった。怒りの対象はもちろん佐藤に向けられていたが、その射程はもっと別の、遠くにあるなにかまで届いていた。
そのなにかを具体的な言葉で指示することは難しい。それは死ではあるのだが、ある特定条件下における死であり、つまり暴力が作用した死、理不尽で倫理に悖る死ではあるのだが、というより怒りの対象はやはり死ではなく死をもたらす要因、原因、根源的ななにかではあるのだが、具体的な言葉で指示することは難しい。
怒りの眼差しは一点に、亜人というカテゴリーや佐藤という個人に収斂してはいないように見えた。行為を起こした者への責任は認めているが、その背景にあるものを決して無視していない。
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