559: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:40:49.79 ID:oL93h30zO
顔にむかって光が投げかけられた。瞳に光線がまともにぶつかり、アナスタシアは反射的にまぶたをとじた。光が眼に滲みる。ぎゅっと搾るようにまぶたを閉じたので、まぶたの裏側の血流を感じた。
ドームを覗きこんだ人物は光源をさげ、トイレを捜索しているもうひとりの男に向かって叫んだ。
560: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:41:56.51 ID:oL93h30zO
アナスタシアは頭を下げながらゆっくりと外へ出てきた。中野はいっそう強くうちわをあおいだので、銀色の前髪が持ちあがり、額やまぶたをくすぐった。ふらつきながら立ち上がると、喉と胃の訴えがふたたび強くなってきた。
中野「永井、飲み物三つな!」
561: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:43:46.73 ID:oL93h30zO
永井はあきらめたようにうなだれた。永井の右手には五〇〇ミリリットルのコーラのペットボトルが一本あるだけだった。
中野「おれらの分は?」
562: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:44:49.33 ID:oL93h30zO
中野「で、これからどうする? まずはアーニャちゃんを家に帰さなきゃなんないよな」
出し抜けに中野の声が耳に届き、アナスタシアは顔をあげた。「えっ」という困惑の声が送りつけられた涼風に跳ね返される。風が鼻腔を通っていく。中野はうちわを左手に持ちかえていた。アナスタシアが考えに耽っているあいだも、うちわをあおぎつづけてくれたので、アナスタシアの額の汗はすっかり引っ込んでいた。
563: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:46:08.58 ID:oL93h30zO
中野「いや、アーニャちゃんが亜人だってのはわかってるよ。でも、居酒屋で亜人の話になったときもそんな話は全然なかったぜ」
永井「ていうか、こいつの正体ばらしてないし」
564: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:47:23.02 ID:oL93h30zO
アナスタシア「アーニャのおサイフ!」
永井はとくに驚いた様子をみせなかったが、大声には顔をしかめた。財布がアナスタシアに投げ返される。中を確かめると、わずかに硬貨が残されているだけで紙幣が一枚もなかった。
565: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:48:37.36 ID:oL93h30zO
永井と中野はふたりして呆然としていた。アナスタシアが鼻と口を手でおおって上を向いたとき、永井は文句をぶつけようとアナスタシアに一歩詰め寄った。
公園に盛大な腹の音がたっぷり五秒間響いた。
566: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:50:07.93 ID:oL93h30zO
永井「中野、車まで連れてってやって……」
永井はなにもかも諦めたかのように両手で顔をおおった。
567: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:52:06.22 ID:oL93h30zO
永井「あー、もう!」
さすがの永井もついに大声をあげた。いそいで車まで走っていく。助手席に乗り込むと、ドアを乱暴に閉める。
568: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:55:45.71 ID:oL93h30zO
アナスタシアがじっくり味わいながらカレーを食べていた。もう涙は流してなかったが、眼はまだ赤く、ときおり鼻をすすった。アナスタシアは食事に割り箸を使っていた。なぜカレーを箸で食べるのかと疑問に思ったが、すぐに解消した。アナスタシアのカレーにだけアジフライが入っていた。作られてからそんなに時間が経ってないのだろう。アナスタシアがアジフライを齧ると、サクッという衣を噛む音がした。
口の中のものを嚥下したアナスタシアがコーラを飲んだ。そしてふたたび食事を再開しようとしたとき、ミラー越しに永井と視線がかち合った。
569: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:58:28.21 ID:oL93h30zO
中野「永井、これ、おまえの姉ちゃんだろ」
中野が見せてきたCDジャケットには水着姿の美波が印刷されていた。
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