新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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513: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:23:47.66 ID:OBzab0O/O

 一台のバンがかなりのスピードで杉の木が道の両端に並ぶ林道を走り抜けていった。平凡な夏の日によく見る光景だったが、タイヤが巻き上げる土埃の勢いは運転手が急いでいることを物語っていた。

 運転手は頬がこけた老人で、出っ張った頬骨の上には眼鏡のつるがあり、車体の揺れにあわせてレンズに反射する光が上下していた。

以下略 AAS



514: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:25:27.28 ID:OBzab0O/O

 だが、永井がその姿勢でいられたのは、束の間のことだった。


老人「私が責任をもって安全な場所まで連れていくよ」
以下略 AAS



515: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:28:22.35 ID:OBzab0O/O

 永井は運転席の老人をとっとと見捨てることにした。永井の腕が獲物に飛びかかる蛇みたいにハンドルめがけて伸び、林道から真っ直ぐ空をめざす一本の樹木めがけて限界までハンドルを切った。正面にのびる林道から樹々が集まる森の景色へと老人の視界に写るものが一瞬で移り変わる。老人は悲鳴をあげながら必死でハンドルを元に戻そうとするが、永井は身体を運転席に乗りだし、老人のハンドル操作と視認の邪魔をする。そして、壊れたシートベルトを腕に巻き付け衝突に備える。

 永井がフロントガラスにめり込んだ額を引き抜いたとき、日は傾きはじめ、林道は橙と黄色に輝く夕陽に染まり、林道から森へ曲線を描く轍に黒い影がかかっていた。

以下略 AAS



516: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:29:58.79 ID:OBzab0O/O

『彼らは人を殺したとしても、何も感じたりはしません』

『例外なく、すべての亜人が危険だということを、国民一人一人が認識すべきだったのです』

以下略 AAS



517: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:31:27.84 ID:OBzab0O/O

永井「佐藤さん……アンタ……本当に住み良い国を作る気あんのか?」


 そう呟いたあと、永井は額を押さえたまま頭をあげた。また傷口から血がゆっくり流れてきた。永井はもう一度手のひらで血を拭った。何度か瞬きして焦点が合ってくると、影と夕陽が切り分けた視界のなかに、白煙がゆらゆらとひしゃげたボンネットの隙間から立ち上っていた。
以下略 AAS



518: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:32:57.24 ID:OBzab0O/O

中野「ざまあ! 登ってやったぞ!」 


 コンテナの扉まで到達した中野がそらまでの鬱憤を晴らすかのように叫んだ。コンテナの内壁にはなんとか指を半分まで入れ込むことが可能な溝が入口から奥まで直線上に並んで延びていて、中野はその溝に指をかけ梯子を登るようにコンテナの頂上むけて登っていった。
以下略 AAS



519: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:34:12.44 ID:OBzab0O/O

中野「よし……ん?」


 中野は力を込めて扉をあげようとしたが、入口はビクともしなかった。
以下略 AAS



520: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:37:02.93 ID:OBzab0O/O

 はっきりしないながらもアナスタシアが意識を取り戻したとき、アナスタシアはロープで吊り上げられた状態で、ダクトテープで固定された両手足がぶらぶらと止まりかけた振り子のように揺れていた。

 ぼおっとしていると、アナスタシアの身体がぐいっと上に引っ張りあげられる。身体を縛るロープが肋骨に食い込んで痛い。引っ張られるたびにロープはぎしぎしと肋骨に食い込み、うめき声をあげそうになったが、口に巻かれたダクトテープのせいで喉の外に声が洩れることはなかった。そのかわり、ポロポロと涙が出てきてしかたがなかった。

以下略 AAS



521: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:38:12.29 ID:OBzab0O/O

 アナスタシアは身体中の痛みに気をとられて、まわりの状況を判断できる状態ではなかったが、すぐ側にいる人影に気づくととっさに身の危険を感じ、本能的にIBMを発現した。

 救いを求めるような必死さを込めて、その人影を遠ざけるようIBMに願うと、星十字のIBMは人影の胸の真ん中に爪を突き立て腕まで貫通させ、腕を真っ直ぐに伸ばしたままいちばん近い杉の木まで突進していった。攻撃を受けた人物と木が衝突し、幹は大きく穿たれ、ガサカザッと葉を鳴らしながら、木が大きく揺れた。

以下略 AAS



522: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/12/22(金) 23:40:23.48 ID:OBzab0O/O

 夜の帳がおりた森の只中は穏やかで、とても人が死んでいる風景には見えなかった。おぼろげな月明かりと夜風に包まれると気持ちが良くて、蒸し暑さを忘れるほどだったが、中野の胸の穴からは血が帯のようになって流れていた。

 脅威を退けるよう懇願されたIBMは、次の命令がないため中野に腕を打ち込んだまま沈黙していた。永井がIBMを発現し、この凶暴な黒い幽霊が星十字型の頭部を砕いた。IBMの身体がくずおれ、木に張りつけられていた中野が地面に落ちる。

以下略 AAS



523: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:41:57.52 ID:OBzab0O/O

 永井のIBMはもう消失したのか姿は見えず、中野は幹の半分が抉られた倒木からすこし離れたところに倒れていた。中野はもうそこにはない胸の穴を押さえながら起き上がった。

 触ってみてはじめて気づいたが、中野の服の破れ目はまるい穴ではなく、肋のうえに横線が引かれているようにぱっくり開いていた。中野は破れ目が背中のほうまでつながっているのか確かめようと首を回した。そのとき、井戸の周辺の、かつて均され、いまはところとごろに草が生えた自然状態の開けた地面と森との境界に、一本の腕が転がっているのを見つけた。

以下略 AAS



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