521: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:38:12.29 ID:OBzab0O/O
アナスタシアは身体中の痛みに気をとられて、まわりの状況を判断できる状態ではなかったが、すぐ側にいる人影に気づくととっさに身の危険を感じ、本能的にIBMを発現した。
救いを求めるような必死さを込めて、その人影を遠ざけるようIBMに願うと、星十字のIBMは人影の胸の真ん中に爪を突き立て腕まで貫通させ、腕を真っ直ぐに伸ばしたままいちばん近い杉の木まで突進していった。攻撃を受けた人物と木が衝突し、幹は大きく穿たれ、ガサカザッと葉を鳴らしながら、木が大きく揺れた。
中野「痛っ、てぇ……」
恐怖のため固く瞼を閉じていたアナスタシアが、聞き覚えのある呻き声に素早くばっと頭をあげると、自らの分身ともいえるIBMが中野を杉の木の幹に磔にしている姿を目撃した。葉のあいだから射し込んだ月明かりが茶色に染めた髪を照らし、アナスタシアは磔にされた男が自分を助けようとしてくれた人だったことに気がついた。
その瞬間、アナスタシアの気持ちは闇色の絶望に染まった。たとえ故意でなくても、善人を殺めたという事実が一生を通じて呪いのようにつきまとい、あらゆる幸福、感情発生を正当的に禁止し、だがそれが罰というわけでもなく、だから償うこともできず、事実に命じられるがまま、殺人者として生を全うしなければならない。そのような絶望がアナスタシアを襲った。
なぜそうしなければならいのか? それは、アナスタシア自身がそうしなければならないと考えているからだった。
アナスタシアは死を恐れはじめていた。自分の死ではなく、どこかの誰かの死。それは、研究所に忍び込んだあの日、夜の雨のなか、真っ黒な無を宿した死人の眼を見てから生まれた感情だった。アナスタシアはその眼を見て、死が“ある”ということをはじめて知った。そして、死は、“もたらすことができる”ものだということも、同時に知った。
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