274: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:24:59.86 ID:8mPTevMeO
275: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:25:35.97 ID:8mPTevMeO
九三年にオープンするはずだったホテルサンヘイリの有様は、二十年近く放置されていたにしては、立派に聳え立っているといってよかった。建物は周囲を鬱蒼とした森に囲まれた場所にあり、真上から降り注ぐ陽射しと森から沸き起こってくる蝉の鳴き声を一身に浴びている。もともとはこの森を切り開き、ゴルフ場やリゾート施設を建設する予定だったが、バブル崩壊を期に開発計画は頓挫。いまでは伸び放題の雑草とスプレーの落書きがこの夢の跡を飾っている。
この廃墟のまえに七人の男たちがいる。かれらはみな亜人で、二日前に厚生労働省に集い、ここに再集合していた。
かれらは大半は二十代半ばから後半と思えた。ストライプの半袖シャツとハーフのジーンズ、サンダルという格好の男と、カーディガンを肘までまくり、長髪を後ろで束ねている男は付き合いがあるらしく、緊張感なく他愛もないことをくっちゃべっている。他の者たちは互いに視線を合わせようとせず、黙りこくっている。眼鏡をかけた坊主頭の者、ショルダーバッグを肩からかけている者、曲がった右足の杖をついたジャージの者などがいた。いちばん若いのは、髪を茶色に染めた十代後半の少年。髪を短く刈り上げた体格の良い男性がおそらくもっとも年齢が上で、腕時計をみて時間を確認している。
276: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:27:01.46 ID:8mPTevMeO
突然、背後で手を叩く音がした。
IBM(佐藤)『コレで全員かな』
277: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:28:09.69 ID:8mPTevMeO
秋山「だいいち、あの男……うさん臭い」
秋山はまるで窓から外の様子を伺うように首を動かし、ホテル内部の構造を検分する。佐藤の幽霊に案内され移動してきたルートを思い浮かべ、その構造や設計を頭の中で組み立てている。
278: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:29:14.62 ID:8mPTevMeO
佐藤「絶景だね」
佐藤が集まった亜人たちを見渡して言った。
279: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:30:23.99 ID:8mPTevMeO
佐藤「そう、大量虐殺する」
予想だにしていなかった佐藤の提案に、再集合した一同はそろって息を飲み、沈黙した。佐藤の声音はさっきまでの落ち着きを保ったままで、その選択がさも当然のことであるかのように話を続ける。
280: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:31:40.28 ID:8mPTevMeO
佐藤に問いかけられた中野は、怯えたように唾を飲み込んで額から汗を滲ませていた。まさかテロへの参加を呼びかけられるとは夢にも思っていなかったからだ。
中野「反対です」
281: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:33:25.83 ID:8mPTevMeO
空気が噴出するような音がしたのと、中野が秋山の膝裏を蹴ったのはほぼ同じタイミングでのことだった。秋山の膝がくの字に折れ、体勢が崩れる。次の瞬間、中野と秋山のあいだを麻酔ダートが飛んでいった。麻酔ダートは眼鏡をした亜人の背中に突き刺さり、中野は倒れたその男に駆け寄って「平気か!?」と大声をかける。
ガンガン、と換気口のルーバーを何度も蹴りつける音がする。秋山が音のするほうを見ると、ルーバーの固定部が外れ、内側から蹴り飛ばされた。換気口の中には田中が潜んでいた。ガス式のダートライフルをぴったりと身体に引き寄せてスペースをつくり、コルトM1911を握った右手を秋山たちに向けて突き出している。
282: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:34:59.47 ID:8mPTevMeO
部屋の中では、銃撃の瞬間に壁に飛びすさった高橋とゲンが息を喘がせている。動揺しているが、同時に興奮しているのか二人とも口の端が上向いている。
田中は逃げた二人を追おうとするが、ノブがガチャガチャいうだけでドアは開かない。
283: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:36:18.76 ID:8mPTevMeO
ロッカーの位置を調節し終えた秋山と中野が、ドア越しに佐藤の声を聞いた。
秋山「聞いただろ。監禁されるだけだ。行くぞ!」
284: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:37:49.61 ID:8mPTevMeO
秋山と中野は必死に走り続けている。建設途中で放棄されたホテルには表記がなく、どこもかしこも区別がつかずまるで迷路のようだ。二人は外縁にあたるであろう方向に走りまくった。脚を激しく回転させるのと同じように、曲がり角があれば首を左右に動かし脱出のための経路を探る。
秋山「窓があるぞ!」
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