192: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:25:10.94 ID:AMJLL1TVO
引き金にかかる佐藤の指に力が入る。引き金が引き絞られてから銃弾が発射されるまでの時間は瞬間的で、僅かな秒数でしかない。その一秒にも満たないあいだに、永井は反射的に動いていた。銃身を掴み、ありったけの力で下のほうに抑え込む。銃弾は薬莢よりはやく落ち、床に弾痕を残した。
佐藤「永井君?」
193: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:27:36.90 ID:AMJLL1TVO
佐藤 (永井君、やはり君は……)
194: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:29:41.17 ID:AMJLL1TVO
銃撃の音は研究員の鼓膜だけでなく、その皮膚にまで雪崩のように押し寄せてきて、激しい震えを与えた。肌を打ち続ける轟音に、マスクの研究員は、自分が撃たれてしまったのかと思った。瞼の裏が熱く、血潮が脈打っているのがうるさかった。
鼓動と脈拍の喚きがいつまでも止まないことに気づいた研究員は、恐る恐る、眼を開けてみた。細い白煙の一筋が眼にはいった。煙は、M4カービンの銃口から昇っていた。永井は尻もちをついた状態で、ドアに背をつけている佐藤に銃を向けており、永井の周囲にはたくさんの空薬莢がまだ熱を持ったまま転がっていた。
195: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:31:53.00 ID:AMJLL1TVO
永井「ごめんなさい、とっさに」
佐藤「永井」
196: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:33:47.75 ID:AMJLL1TVO
研究員2「なあ、麻酔銃ないか!? いまのうち! 二発!」
研究員3「え?」
197: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:35:36.36 ID:AMJLL1TVO
研究員2「おまえのせいで何人死んだと思ってんだ!」
声を押し殺しつつ、研究員は永井に責任を押し付けようとした。永井は通路にあった死体の数をざっと思い出しながら、「僕が殺したわけじゃないしなあ」とどうでもよさそうにつぶやいた。永井は小さな黒い眼で隣の研究員を見据えた。瞳の黒さには、どこか冷酷な感じを与えるものがあった。
198: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:37:16.81 ID:AMJLL1TVO
佐藤は入口のドアの近くに立ったままで、首をめぐらし、どこかのラックの裏に隠れているであろう永井に向かって話しかけた。
佐藤「死なない安心感が、あらゆる判断を安易にさせているんだろう。私が殺すといったのは比喩ではない」
199: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:38:51.88 ID:AMJLL1TVO
佐藤「私はいまから、必ずきみを断頭する」
佐藤「そしてその頭を拾い上げ、すこし離れたところで、新しい頭が作られてしまうさまを、絶命するまで観察させる」
200: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:44:39.00 ID:AMJLL1TVO
永井は急に息苦しくなった。実在感を獲得した恐怖の感情は窒息器のように作用し、永井の呼吸を阻害した。自分自身のいやおうのない消滅を避けられず、情け容赦の無い事象が存在の根を切断していこうとするのに、抵抗の努力はすべて敗北する。無力感が巨大で物質的なものに思え、精神でなく肉体までも破壊していくように感じる。佐藤の足音がさらに近づく音を聞くと、毛穴が開き、身体から水分といっしょに空気まで抜け出ていくような脱力に襲われた。
研究員3「永井圭、君」
201: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:46:17.22 ID:AMJLL1TVO
佐藤が三列目のラックのあいだを探し終えたとき、中央五列目と六列目のあいだから三本の指がのぞいているのを見つけた。佐藤はラックの側面に左手を添え、床に座っているであろう永井の首めがけてナイフの刃を振り下ろそうと、右腕をあげた。
ラックの陰に残っていたのは、切断された三本の指だけだった。
202: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:50:00.23 ID:AMJLL1TVO
オグラ「IBMは物質だよ」
コウマ陸佐「では、なぜ見えない」
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