195: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:31:53.00 ID:AMJLL1TVO
永井「ごめんなさい、とっさに」
佐藤「永井」
自分自身の行動に戸惑いを隠せない様子の永井が、手のひらをみせて謝罪ともごまかしともつかない言葉を口にしたとき、死にかけている人間が発するものとは思えないほど、輪郭のはっきりした殺意が佐藤の口から放たれた。
佐藤「君も、ブチ殺してやる」
佐藤は笑顔だった。血塗れの口が開き、僅かに残った歯の白い部分が灯りを照り返し、凶暴そうに光っている。狼が獲物の咽喉部を喰いちぎるときはきっと、このように牙を見せるのだろうと思わせる佐藤の笑顔は、永井にまっすぐ向けられていた。
永井 (ああ……いまさら気づいた)
背中がズルズルとドアを滑り落ち、脚が力なく床に伸びる様子を見ながら、永井はようやく佐藤の一端を理解した。
永井 (この人、『静かに暮らすのがモットー』なんて、ウソだ)
佐藤の頭ががくんと落ちた。帽子の上部がかすかに揺れるのが見えたが、すぐに動かなくなり、息が止まったかのように部屋のなかは、しんと静かになった。
永井 (ていうかそんなことより……脱出が、困難に……)
佐藤が事切れる瞬間を目撃した永井は、みずからの行動が現在進行で状況を悪くしていることにいやな汗をかかずにいられなかった。
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