196: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:33:47.75 ID:AMJLL1TVO
研究員2「なあ、麻酔銃ないか!? いまのうち! 二発!」
研究員3「え?」
197: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:35:36.36 ID:AMJLL1TVO
研究員2「おまえのせいで何人死んだと思ってんだ!」
声を押し殺しつつ、研究員は永井に責任を押し付けようとした。永井は通路にあった死体の数をざっと思い出しながら、「僕が殺したわけじゃないしなあ」とどうでもよさそうにつぶやいた。永井は小さな黒い眼で隣の研究員を見据えた。瞳の黒さには、どこか冷酷な感じを与えるものがあった。
198: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:37:16.81 ID:AMJLL1TVO
佐藤は入口のドアの近くに立ったままで、首をめぐらし、どこかのラックの裏に隠れているであろう永井に向かって話しかけた。
佐藤「死なない安心感が、あらゆる判断を安易にさせているんだろう。私が殺すといったのは比喩ではない」
199: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:38:51.88 ID:AMJLL1TVO
佐藤「私はいまから、必ずきみを断頭する」
佐藤「そしてその頭を拾い上げ、すこし離れたところで、新しい頭が作られてしまうさまを、絶命するまで観察させる」
200: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:44:39.00 ID:AMJLL1TVO
永井は急に息苦しくなった。実在感を獲得した恐怖の感情は窒息器のように作用し、永井の呼吸を阻害した。自分自身のいやおうのない消滅を避けられず、情け容赦の無い事象が存在の根を切断していこうとするのに、抵抗の努力はすべて敗北する。無力感が巨大で物質的なものに思え、精神でなく肉体までも破壊していくように感じる。佐藤の足音がさらに近づく音を聞くと、毛穴が開き、身体から水分といっしょに空気まで抜け出ていくような脱力に襲われた。
研究員3「永井圭、君」
201: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:46:17.22 ID:AMJLL1TVO
佐藤が三列目のラックのあいだを探し終えたとき、中央五列目と六列目のあいだから三本の指がのぞいているのを見つけた。佐藤はラックの側面に左手を添え、床に座っているであろう永井の首めがけてナイフの刃を振り下ろそうと、右腕をあげた。
ラックの陰に残っていたのは、切断された三本の指だけだった。
202: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:50:00.23 ID:AMJLL1TVO
オグラ「IBMは物質だよ」
コウマ陸佐「では、なぜ見えない」
203: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:52:14.01 ID:AMJLL1TVO
ドアが開いた。そこから飛び出してきたのは、手術用ガウンを身につけた二人の研究員だった。先頭にたつ研究員は、一刻も早く佐藤から逃げるため振り向きもせず走った。後から出てきた方、手術帽とマスクをつけた研究員は黒のマジックインキのキャップを外した。
研究員2「何してんだ!」
204: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:53:55.61 ID:AMJLL1TVO
永井 (来る! 断頭される!!)
永井はとっさに左腕を上げた。
205: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:56:12.17 ID:AMJLL1TVO
天井を覆い尽くす大量の粒子は、隅の方へ流れている。そこでは換気扇が作動中だった。
永井 (いや、換気扇に吸い込まれてる。煙? 粉?)
206: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:58:28.19 ID:AMJLL1TVO
黒い幽霊の振り上げた腕が今度は佐藤の左脚を切断した。ーー確かに黒い幽霊はーー 永井はドアから通路に出ていた。佐藤の身体は上下が反転していて、頭から床に落ちていったが、 ーー命令せずとも言葉を反復したり、ーー 床が佐藤の頭を帽子越しに打つまえに ーー少しうろついたりはするがーー 黒い幽霊の手が佐藤の腹を貫いた。ーーコイツはちょっと……ーー幽霊は佐藤を床に叩きつけると、腹部を貫いていた指がずるりと抜いた。
幽霊は足元の佐藤にもう関心を払わず、背骨を伸ばすと首を上げて天井を見上げた。
968Res/1014.51 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20