21: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:54:29.46 ID:nm7zvJuf0
「ようこそいらっしゃい。初めまして、かな。高山紗代子です」
「あ、は……い。初めまして。いつも応援しています」
家に着くと、待ちかねたように姉……紗代子が2人を迎え入れてくれる。
「とりあえずリビングへどうぞ。なにかもってくるね」
22: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:55:06.29 ID:nm7zvJuf0
リビングに戻ると、待っていたように徳田さんが話しかけてくる。
「お姉さん、家ではメガネなんだ」
あれ?
姉、紗代子はステージでは裸眼で髪もほどくが、普段はメガネをして髪も結んでいる。
ステージとはかなり印象が変わるが、それは高山紗代子ファンの間では割と有名なことだ。
23: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:55:48.58 ID:nm7zvJuf0
彼女を部屋に案内する。
「こ、ここ座ってよ」
とりあえずベッドを指さし、彼は言う。
座るのならイスの方が良いかも知れないが、座り心地の良いベッドを勧める。
24: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:56:27.85 ID:nm7zvJuf0
「え? なに?」
「ずっと言おうと思ってたんだけど、なんかタイミング? みたいなのはずしちゃった感じで」
「それって、なに?」
徳田さんは、彼を見つめた。
「私、徳田じゃありません」
25: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:57:09.11 ID:nm7zvJuf0
「さて、私の名前はなんでしょう?」
「え?」
そんなのわかるわけ……そう言いかけて、彼は口を閉じる。
徳田さんは、いや徳田さんだと思っていた少女の目は真剣だった。
真剣で、それでいてすがるような目をしていた。
26: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:57:49.44 ID:nm7zvJuf0
「もしもし? 紗代子ちゃん?」
「はい。どうかしたんですか、まつりさん」
「今、紗代子ちゃんはお家にいるのですか?」
「ええ」
27: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:58:34.35 ID:nm7zvJuf0
「遊園地のパレードでお姫様を見て、憧れて……なるほど」
「子供の頃、ね。それでまつりちゃんが『お姉ちゃん、あんなお姫様になりたいんだけどなれるかな』って言うから、私もお姉ちゃんならぜったいなれるし、そうなったら嬉しい……って」
憧れのアイドルのルーツを、その場にいた身内から聞き高山少年は少しばかりの感動と、納得を得た。
徳田さん……いや徳川さんの言っていた「そんなの昔のことじゃない」というのは、そういう意味だったのだ。
28: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:59:15.22 ID:nm7zvJuf0
「え?」
「夢を、こわしちゃったかな? まつりちゃんのファンなのに」
「そんなことないよ。前にも言ったけど、僕だってまつり姫が本当のお姫様だって思ってたわけじゃないから」
そう、それは本当だ。彼はアイドル徳川まつりのファンで、彼女のお姫様のようなところが好きだ。
しかしまあ、だからと言ってそんなつましい努力をしてお姫様みたいになったとは思っていなかったが。
29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:59:54.90 ID:nm7zvJuf0
「あの子の存在が姉ちゃんの背中を押した、一番の要因だとは思うよ。大きなきったかけだった、ってね。でも……」
「? なに?」
「そもそも姉ちゃんは、アイドルが好きで憧れていたんだ。そこにあのことの約束が加わった。でも、そもそもアイドルになりたかったんだよ」
徳川さんは、ちょっと思い当たることがある様子だった。その証拠に、彼女は虚空に目を向け少し頷いていた。
「姉ちゃんにとって、あの子との約束は大きな目標のひとつではあると思うよ。でも、逆に言えば目標のひとつでしかない」
30: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 14:00:31.15 ID:nm7zvJuf0
「ライブに呼んでもらえる……んだったよね」
「いや、そうじゃなくてさ」
それでも少し逡巡してから、彼は言った。
「徳川さんみたいな子と、知り合うきっかけになったから」
少しだけまつり姫に似た瞳が少し大きくなり、その後彼女は微笑んだ。
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