【ミリマス】周防桃子『おとぎばなしで、きっと』
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8: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:28:15.68 ID:170ffVuV0
「──桃子、お疲れさま。こんなところに──」
「きゃあっ!」
9: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:28:48.87 ID:170ffVuV0
「えっと……お兄ちゃん。……今の、もしかして聞いてた……?」
それを聞くのは……ちょっとだけ怖かった。
10: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:29:41.19 ID:170ffVuV0
「隣、座っていいか?」
「……うん」
11: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:30:16.80 ID:170ffVuV0
「お兄ちゃん。……『不思議の国のアリス』って、原作だと、アリスが見た夢の中のお話なの」
物語の最後で、アリスは不思議な夢から目覚める。
その後、アリスはお姉さんに夢の中の冒険を無邪気に話すの。
12: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:30:44.11 ID:170ffVuV0
今回の公演の中で、アリスはたくさんの冒険をして、そこでたくさんの仲間たちと出会った。チェシャ猫さん、帽子屋さん、白うさぎさん──それぞれ、茜さん、千鶴さん、紬さん───と仲良くなって。
物語の最後では、お姉さん──真美さん──とも一緒に、みんなでお茶会をした。
ちょっぴり騒がしくて……でもそれが何故か心地よくて。本当に楽しかった。
だから、今は──。
13: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:31:38.61 ID:170ffVuV0
桃子は、何も喋らなかった。
……ううん、本当は喋れなかったんだとおもう。
これ以上、自分の心を上手く説明することができそうになかったから。
胸の中では、自分のいろんな気持ちが混ざり合って、ぐるぐる回ってた。
14: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:32:32.56 ID:170ffVuV0
ふと桃子がお兄ちゃんの方を見ると、そこで目が合った。
お兄ちゃんは、どこか優しい表情をしていたように見えた。
「……うん。きっと、それでいいんじゃないか?」
15: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:33:07.48 ID:170ffVuV0
「うん……。お兄ちゃんの言ってること、今の桃子なら少しだけ分かる気がする」
──きっと、桃子も、夢の中にいていいんだよね。
アイドルになって、劇場のみんなとたくさん一緒にいて、気づいたことがある。
16: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:33:36.11 ID:170ffVuV0
「……桃子も、ずっと夢を見ていたいよ」
ずっと夢を見ていられたのなら、よかったのに。
夢の中みたいだった公演も、もう終わってしまった。
17: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:34:07.92 ID:170ffVuV0
「あの、ね。その……うまく言えないんだけど……。桃子、公演が終わってほしくない、いつまでもこの時間が続いてほしいって思ったの」
心の中に浮かんでくる言葉を、そのまま呟いた。
それをぽつりぽつりと声にするごとに、桃子の指先はだんだんと冷たくなっていく。
18: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:37:01.30 ID:170ffVuV0
「桃子」
お兄ちゃんの声が聞こえる。
その声は暖かくて、桃子の心の中に染み込んでいくみたいだった。
19: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:37:29.38 ID:170ffVuV0
「桃子の『夢の時間が終わってほしくない』っていう願いは……現実的には、すごく難しいことだと思う。……桃子自身も、そんなのは叶いっこない夢だって思うかもしれない」
叶いっこないなんて、そんなこと桃子自身がいちばん分かってる。
それでも──桃子は、おとぎばなしみたいな夢の中で、ずっとみんなと一緒にいたいって思ったんだ。
20: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:38:14.97 ID:170ffVuV0
「もし桃子が、本当は夢を見ていたいと思うのなら──たとえそれがどんなに難しいことであったとしても、俺は桃子の夢を一番近くで支えて、一緒に叶えていきたいと思ってる」
……お兄ちゃんって、本当に変わってる。
普段は子供っぽくて、楽観的で、たまに意地っ張りで……。
21: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:38:54.86 ID:170ffVuV0
「……お兄ちゃんが桃子にそう言ってくれるのは、お兄ちゃんが桃子のプロデューサーだから?」
気づけば、桃子はそれを言葉にしてた。
22: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:39:27.95 ID:170ffVuV0
──声が、聞こえた気がした。
桃子の胸の中には、あの時と同じ、ペンライトの光の海が広がってた。
その向こう側に、桃子たちを応援してくれる、みんなの顔が見えた。
23: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:41:39.07 ID:170ffVuV0
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして。……もう、平気そうか?」
24: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:42:14.06 ID:170ffVuV0
桃子は、そのまま観客席をずっと見つめてた。
もう、寂しくなんてなかった。
今は、いつかこの劇場で『夢の時間』が叶う、そんな瞬間を夢見てる。
今のこの気持ちに出会えた自分のことを、少しだけ誇らしく思えた。
25: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:42:43.12 ID:170ffVuV0
「……お兄ちゃん、そろそろ行こっか」
「そうだな」
桃子たち二人は、ステージの段から下りて、舞台袖の方へ歩いていった。
26: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:43:15.83 ID:170ffVuV0
──桃子、この劇場に来られて、本当によかったな。
そうじゃなかったら、きっと、今のこの気持ちにだって出会えてなかったから。
……だから、ありがとう。
これからも桃子を……桃子たちを、よろしくね。
27: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:44:24.29 ID:170ffVuV0
「桃子、急に立ち止まって……どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ。──それより、次の定期公演のことなんだけど……」
28: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:45:21.09 ID:170ffVuV0
(あとがき)
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
「セカンドヘアスタイル周防桃子」と「デコレーション・ドリ〜ミンッ♪」のお話でした。
両者はともに「おとぎ話を現実にする」という点で共通しているのではないでしょうか。
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