1: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:44:33.99 ID:31ioHmBu0
1.前ほどの話
例えレッスン終わりだったとして、冬の夜風は体に酷く沁みる。
コートに手袋、マフラーもして、ダメ押しに帽子を被ってても、ちょっとした衣類の隙間からびゅうびゅう沁み込んで来るんだから。
「くしゅん!」
「だ、大丈夫ですか静香さん?」
「ん、平気」
「はぅ……それならいいのですが。今日はまた一段と冷えますね」
と、続けたエミリーの口からも白い吐息。
彼女も寒さが堪えているんだろう、鼻先がすっかり赤くなっちゃってる。
それを見て、私もぐしゅっと鼻をすする。
すると前を歩いてた貴音さんが振り返って。
「二人ともよければもう少しこちらへと。……私の後ろを歩いていれば、少しは風よけにもなりましょう」
「そんな! 出来ませんよ貴音さん」
私はすぐにそう返した。
だってそうでしょ? いくらビル風を冷たく感じたって、先輩を風よけにするだなんて!
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2: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:47:04.31 ID:31ioHmBu0
「そうです! 恐れ多いことです!」
それはエミリーだって同じみたい。
3: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:48:35.11 ID:31ioHmBu0
「あ」
その時だった。
4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:49:45.49 ID:31ioHmBu0
「貴音さん、どうかしました?」
「しっ、静かに」
5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:51:26.83 ID:31ioHmBu0
「……うそば?」
思わず声に出して読んでしまった。
6: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:52:31.84 ID:31ioHmBu0
スマホに時刻を表示させて寄り道が可能であることを確認する。
「えーっと……寄ってみます?」
7: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:54:37.65 ID:31ioHmBu0
===
「ごめんください」
「こんばんわ」
8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:55:52.56 ID:31ioHmBu0
「貴音さん、メニューがありますよ。……って言ってもお饅頭とか、豆板醤とか、トッピングがメインみたいですけど」
「では、軽く一杯ということで――」
9: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:57:30.48 ID:31ioHmBu0
2.静香の話
それは何でも、飲食業界に古くから伝わる噂話。
あるテレビ局で実際に起きた話。登場するのは一人のアイドル、それから彼女のもとへ出前を届けたアルバイトさん。
10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:58:51.65 ID:31ioHmBu0
それでね?
A子さんから事情を聞いた店員さんは、だったらどうして出前を頼んだんだって。
11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 21:59:51.67 ID:31ioHmBu0
それでね?
店員さんは中華料理のお店で働いていて、何とそこにはお客さん用の漢方って言うか、凄く良く効くって噂の胃薬が置いてあったんですって。
12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:01:14.93 ID:31ioHmBu0
3.後ほどの話
と、ここまで話を聞いた時点で、私は出されたお蕎麦の最後の一本を呑みこんだ所だった。
13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:03:19.81 ID:31ioHmBu0
「まさか、これがそうなのですか?」
エミリーも思わず前のめりになった。多分、私も一緒に前のめっていた。
14: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:03:52.65 ID:31ioHmBu0
===
それで結局、話に夢中だったせいか、お蕎麦の味はよく覚えてないんだけど……多分、悪くはなかったハズ。
むしろ印象に残ったのはお茶の方だ。
15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:05:03.08 ID:31ioHmBu0
4.蛇の話。
「と、いうことがこの前あったのよ」
16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:07:03.19 ID:31ioHmBu0
「それに、よく覚えてないの」
思わず腰が浮いてしまった。
17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:08:37.20 ID:31ioHmBu0
===
「そうか、年越しそばの季節だよなぁ」
18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:10:21.59 ID:31ioHmBu0
「お」
その時だった。
19: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:11:18.47 ID:31ioHmBu0
「な、何なんですか一体……っ!?」
20: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:12:43.38 ID:31ioHmBu0
プロデューサーさんの方を見ると、彼は神妙な面持ちで屋台をジッと見つめ。
「行燈が、消えない蕎麦屋……明かりなし蕎麦」
21: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2020/12/31(木) 22:13:38.06 ID:31ioHmBu0
===
――結局、この時食べた蕎麦の味を私はしっかり覚えてない。
ただしそれが、後から知った燈無蕎麦のせいだったのか、それとも『プロデューサーさんとご飯を食べた』という
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