白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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74:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 00:56:59.83 ID:tRJaplXx0
 それでも、薄弱ながら確かに千夜の輪郭を撫でる指に、張り詰めた不安がましになって、口から笑いともため息ともつかないものが漏れた。
 不思議だ。確かめられているのか、確かめているのか、分からない。動いていく温度が描くのは、千夜なのに、ちとせだ。

「きっとご無理をなさったのですよ。はしゃぎ過ぎたのです、特に昨日は」
「大丈夫だよ」
以下略 AAS



75:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 00:58:08.12 ID:tRJaplXx0
 はあ、とだけ曖昧に返したが、首をひねった。言意を量りかねている間に、ちとせは畳み掛ける。

「千夜ちゃんが心配してくれて嬉しいな。それで、このまま病人にお説教続ける気? 牧師様を叱る方がマシってものじゃない?」
「あのですね」
「ねえ千夜ちゃん、昨日早く帰ってれば、なんて思ってるでしょ。そんなの私、嫌だからね」
以下略 AAS



76:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 00:58:42.37 ID:tRJaplXx0
「プロデューサーさんなら、外回りに出られてますよ」

 ちひろは言った。こうとなってから思い出すが、確かに昨日、そんな事を漏らしていた筈だった。すっかり忘れていた、と自分の不手際に軽い落胆を覚える。
 千夜は手提げに入った二つの箱を取り出して、彼の雑然とした机に置いた。

以下略 AAS



77:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:00:24.48 ID:tRJaplXx0
 双葉杏がやって来て、辺りを見回した。其方此方に視線を投げ上げて、最後に千夜へ向く。

「プロデューサーは?」
「あいつなら、外回りというやつですよ。まさか、昨日もそう言っていたのをお忘れですか」
「ぐえー、そうだった。まいっか、こんなのいつもの事だし」
以下略 AAS



78:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:01:10.38 ID:tRJaplXx0
 そういえば、と思い当たった事を言う。
「今日は盗賊≠ェ集まる日だったかと」
「だー!」驚いたように、「そーだったー! 仮にも売れっ子アイドルが十も二十も集まるチャンスなんてそーそーないじゃん! 流石に今日は志希ちゃん来なきゃやばいよー…… って」杏は頭を抱えていたのを辞め、「何で杏がこんなコト考えなきゃなんないのさ…… 舞台に出る訳でもないのに。ねえ?」
「はあ」
「もー、プロデューサーが捕まえてよーやくめでしょー!」
以下略 AAS



79:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:01:36.81 ID:tRJaplXx0
「ここ、荒立ちでは顔を寄せて、内緒話のようにしていましたが……」古澤頼子が囁いた。「ビデオを見たら、もっとそっぽを向いて、肩越しに話す方がいいと思ったんです。ええと、こんな風に」身体を捻る。

「肩越しに、ですか」と返して千夜。頼子に倣って対峙する。
「お、さすが古澤さん」演出家が割って入った。「ボクもそれ言おうと思ってたんだ。うんうん、そっちの方が舞台っぽいよね」
 嘯きに、頼子はくすくすと笑って返す。
以下略 AAS



80:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:02:16.95 ID:tRJaplXx0
「あの…… 千夜さんは、どうでしょう」
 頼子が首を傾げてみせた。その囁くような声量と、蒼い光を返す瞳は、安心感とも倦怠感ともいえようデジャヴを覚えさせる。そしてやはり、こそばゆい。逸らしがちに見返す。この自分の仕草も《舞台っぽい》のじゃなかろうか、と思う。

「はい、賛成です。それで行きましょう」
 頼子は微笑むと、ババ・ムスタファの立ち位置へ戻って行った。
以下略 AAS



81:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:02:43.20 ID:tRJaplXx0
 アリババの兄カシムは既に裕福な町有数の商人でありながら、強欲にも、魔法の洞窟で財宝を得たアリババを脅し、合言葉を聞き出すと、自分もそこへ向かう。弟と同じか、それ以上の財宝をせしめた筈が、うっかり呪文を忘れ、洞窟に閉じ込められる。
 原作では帰ってきた盗賊たちにバラバラにして晒され、今回の舞台での《やさしい》演出では慌てて逃げた為に全身の傷とトラウマを負わされ、迎えに来たアリババの知るところとなる。

 アリババはカシムを家に送り届けると、盗賊たちの追撃を躱す為、兄の身に起こったことを隠蔽する必要がある事を告げる。その任命を受けたのがカシムの家の奴隷、賢く美しいモルジアナ。

以下略 AAS



82:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:03:48.02 ID:tRJaplXx0
「では案内の前に、目隠しをさせて頂きます」
「目隠し……? もしやましい仕事なら……」
 蒼い眼のムスタファが、取り決めた通り肩越しに返す。
「いいえ、靴屋様。誓って、やましい仕事ではありませんよ」

以下略 AAS



83:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:04:25.10 ID:tRJaplXx0
 演じながら、あるいは人がそうするのを見ながら、考える。モルジアナは今、誰の、何の為に動いているのだろう。

 アリババはまだ主人ではない。カシムの妻だろうか。自分に降りかかる火の粉を振り払う為か。それとも、亡き主人の復讐を果たす為だろうか。守るべきものを守れなかった、奴隷の汚名返上の為に。

 モルジアナにとって、そもそもカシムは想うべき存在であったのか。奴隷が、世情からいえば人格を否定されるような支配を受けていたのではなかったろうにせよ、果たして仕えることに満足を見出せる関係性だったのか。千夜に言わせれば、愚かな主人だ。合言葉、それも胡麻≠フ一言だけを忘れる間抜けな最期は、モルジアナの知るところではなかったとはいえ、彼女を含めて奴隷の一人も連れて行かずに結局自滅したのは頂けない。財宝を運ぶにも人手はあった方が良かっただろうし、結果論ながら呪文も忘れずに済んだ筈だ。それは罪の意識の為、他の者に秘密を共有する必要を嫌ったからであっただろうか。それとも、悪事は一人で背負い込むという男気か。
以下略 AAS



84:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:05:29.23 ID:tRJaplXx0
「千夜さん、もっと前に」

 頼子の指摘に頭を下げて、踏み込む。もっと舞台を利用しなければいけなかった。
「まったく、散々連れ回して……」 
「ご苦労様でした。もう目隠しをお外ししますが、何をご覧になっても、あまり声などあげられませんよう。その場合、こっちには備えがありますよ」
以下略 AAS



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