白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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157:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:59:02.78 ID:tRJaplXx0
「千夜さんがお好きだとウワサになっているのは美術館≠ネのです。美術≠ナはなく! これは一体何を意味するのか? この些細な違いに事件を見出すのが探偵というものです! そう、パセリの沈んだバターを舐めるようにね!」

 都は得意げに言うーー成る程、探偵なのかもしれないな。
 彼女にかかれば、まったく、問題ばかりが山積みらしい。



158:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:59:47.95 ID:tRJaplXx0
「それで? 貴女は何を見出したのです」 
「分かりませんッ!」
 これも得意げだ。何も分からない事を明かして気勢を削がれない事こそ、千夜には分からない。
「分かりませんか」
「分かりませんでした! どうしてなんですか? 気になります!」
以下略 AAS



159:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:00:29.65 ID:tRJaplXx0
「謎ですか」
「大きな謎です! 面白いです! 白雪千夜には、謎がある」

 不躾なものだ。他人の内面にずけずけ踏み込み、暴いてやろうという試みだ。だが、と思う。彼女の瞳が求めているのは、ただ興味本位の知識欲を満足させる答えではないのだろう。仲良くなりたい、子供のような心でそう願い、相手を知りたいと望んでいる。都は仲良くない≠ウえ楽しい≠ヨの入り口にしてしまったのだ。そう思う。只今の問答に悪い気がしなかった事へ、理由を付けたかったのかもしれない。

以下略 AAS



160:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:01:05.60 ID:tRJaplXx0
 目を切ると、都は笑顔で千夜を覗き込んだ。やっぱり、やりづらい。そんな風に見ても何も出ないのに。ため息の牽制も、効果はなかった。
「私が美術ではなく、美術館を好きだといった理由を問いましたね」
「はい!」

「リトルなリドルですよ、そんなのは。別に教えてもいいのですが、またにしておきましょう。今は私にだって、解決すべき問題がありますから。それまではその謎を挑戦状にしておきます。自力で答えを見つけてみるのですね、探偵さん」
以下略 AAS



161:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:01:50.70 ID:tRJaplXx0
 寒くて眠れそうにないと言い、
「ココア淹れてよ」
「実際には」千夜はちとせに答える。「寝る際に暖めるべきは体の外側で、内側の体温を逃さなくてはいけないのですよ」

「へえ、流石千夜ちゃん」
以下略 AAS



162:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:02:28.99 ID:tRJaplXx0
「え、こないだのお礼? なんだー、気にしなくてよかったのに。ううん、ちょーだい。あ、これかー。杏、飴は手使わないで舐めたいのに、これったら棒が危なっかしいじゃない。ううん、ちょーだい。ありがと。杏さ、こないだこれ買ったの。ゲーセンのね、二百円入れたら四本出るやつ。いやルーレットで四本から七本出るって書いてはあるけど、結果出るのは四本なやつね。あれさ、筺にお金入れたら、一本ずつ取り出し口に落ちてくるのね。コトンって。一本目ね、バナナシェイク味。まー好きじゃないけど、あえて選べないやつで買ってるから。これも縁じゃない、バナナいいじゃない、って思って。で、次何出るかな、って。わくわくするよね。したっけ、コトンつって。バナナシェイク。ま、ま、ま、って感じ。こういう場合もあるよねって。いいじゃん食べよーよって。で、その次何出たと思う? 三本目。コーラとかあるじゃん。イチゴとか、いっぱい種類さ。コトン! バナナシェイク! 筺見るじゃん。これバナナシェイクの筺? 違うじゃん。《バナナシェイクしか出ません》って書いてある? いやない。ガラス越しに色んな味見えるじゃん。もう嫌じゃん。四本目に望みかけるじゃん。望みっていうか、もう王子様だよね。バナナに囲まれた杏を救ってくれーって。うん。コトンって出るじゃん、王子様。何だろ? バナナシェイク! わーお! バナナ王子バニラアイスまみれ! もうさ、せめて一本違うの出てくれたら、杏それが腐った卵味でもバンザイしたよー。…… いや、せん‼︎
 ……なので、イチゴくれて、ありがと。うまー」


163:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:03:37.63 ID:tRJaplXx0
 滔々たる杏の語りを聞きながら、千夜はバナナシェイク味を用意しておくべきだったと悔いた。どんな顔をしただろう。眉をひそめ、飴を睨み、歯を剥き出して、一旦しまって、それからほっぺたを膨らませて、ああ、ほっぺたを膨らませて……。

「あら、泡が立ってきたみたい……」

「ん」
以下略 AAS



164:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:04:27.61 ID:tRJaplXx0
 頃合いを見、頷いて合図を出す。三人が目を合わせ、一斉に啜った。

「うん、美味しい……」
 頼子は目を閉じ、神経を集中させた風に言った。
「いいカンジ」と杏。
以下略 AAS



165:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:05:04.09 ID:tRJaplXx0
「武装錬金だ」杏が声を上げた。
「さあ、それは寡聞にして存じ上げませんが……
 ナポレオン体制の外務大臣などで活躍した、シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールが、よいコーヒーについて語ったとされる言葉です」

「悪魔なのに天使ね。矛盾というか、文学的だな」
以下略 AAS



166:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:05:32.33 ID:tRJaplXx0
「悪魔で、地獄ね……」
 千夜は零して、カップを覗き込んだ。黒いのは、確かだ。表面の凹凸は泡や粉で出来ている、トルコ式ならではの見た目。しかし、これがもし十八世紀頃のエスプレッソだとして、タレーランには地獄の窯に見えたのだろうか? フランスの激動を生きた者ならではだろうか、感じ方というのは人それぞれであるものだ。

「これが悪魔だなんて。のんびり出来るのにな?」
「ほんとほんと。のんびり出来るのにね」
以下略 AAS



167:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:06:01.43 ID:tRJaplXx0
 カップを傾けると――ちょっと傾け過ぎた――ざらざらした舌触りと共に、飲める分は終わりになった。底に残った粉の模様で占いを、というわけにはいかない。ちとせのように上手く未来を見ることも、見えたものを説明することも千夜には出来ない。

「きっといいものになるな。楽しみだよ」
 代わりに見通したような言葉。

以下略 AAS



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