白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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168:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:07:43.61 ID:tRJaplXx0
 彼の静止に、立ち上がったまま顔を向ける。
「千夜にちょっと羽織る衣装を試してもらいたいんだ。あんま時間は取らないけど」
「そうですか。ではもう少しゆっくりしていますね」
「いえ、待つには及びません。頼子さんは先に行っていて下さい」
「そう? それでは、美味しいコーヒータイムをご馳走様でした」
以下略 AAS



169:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:08:12.45 ID:tRJaplXx0
「ちょっとギラギラし過ぎやしませんか。アラビアンとはこういうものなのか」
「はは、キラキラだろ。アイドルだからいいんじゃないの」

 着せようとする彼の手から奪い取り、ブラウスの上に袖を通す。変に引っ掛けて痛めないよう気を遣った。真紅を彩る金の模様に、千夜はなにか気圧される思いがして、これがどうと呼ばれる形なのかは知らなかったが、何にせよ台無しにしてはと神経を擦り減らす。やっとの思いで、それぞれの袖四秒程ずつの戦いを終える。

以下略 AAS



170:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:08:41.68 ID:tRJaplXx0
 ふざけて返され、千夜は睨んだ。強い言葉で攻撃を仕掛けようと思い、しかし取り止めた。
 というのも、
「なにそっぽ向いている。失礼でしょう」
「はいはい」

以下略 AAS



171:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:10:00.11 ID:tRJaplXx0
「うん、やっぱり似合うよ。千夜に紅、いいな」
 企画書のファイルが突っ込まれた棚を見遣りながら、紅と聞いて、似合う筈がない、と思う。身を焦がすもの、悪夢の色。焦がれるもの、慕う瞳。『Unlock Starbeat』でだって、着こなせていた自信はない。似合う筈がない。少なくとも、まだ。
 これが本当に似合うようになったら。ショールへ目を落とす。それもひとつの望みなのか。



172:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:10:27.90 ID:tRJaplXx0
「いや、蒼も捨てがたいんだが。白と蒼、いいよな」
 彼が言添えたので、思考が遮られ、白紙に戻る。呆れて、
「まったく…… 紅とか蒼とか、食傷なのですが」

 千夜は吐き捨てた。彼は目を丸くした。
以下略 AAS



173:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:11:26.00 ID:tRJaplXx0
「ああ……」と頷き、「色々いるよな」
「い過ぎます」
「はは」と笑って、「ほかには?」

「三分もレッスン出来ない天才」
以下略 AAS



174:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:11:57.79 ID:tRJaplXx0
「僕も? ほー、エセ芸術家ねえ、……」
「私の世界は白黒でさえあれば充分だった。それをお前は、――よくもまあ、ブカレストの壁にスプレーでもするように」



175:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:12:25.37 ID:tRJaplXx0
「スプレーか!」彼は口元いっぱいに笑みを湛え、鼻を鳴らした。「嫌だったか?」

 答えないままで、ショールを摘む。ひんやりする。持ち上げて、離して、持ち上げる。
 そういえば、
「直しが要るのでしょう、これ。いつまでも着ているわけにいかないのでは」
以下略 AAS



176:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:12:53.63 ID:tRJaplXx0
 
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
以下略 AAS



177:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:13:33.17 ID:tRJaplXx0
「……舞台、順調です」
 顔は斜めに逸らしたまま、肩越しに声を掛ける。文香は未だ読書に夢中のようで、――これでは、誰に言っているのだろうな。

 手提げの持ち手を弄び、二つのアーチを寄せたり離したり、繰り返しながら、
「……色々とお話を聞かせて頂いたお陰で、考えがまとまりました。助かりました」
以下略 AAS



178:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:14:02.27 ID:tRJaplXx0
「『アリババと四十人の盗賊』…… 不詳の語り手たちに継がれた『千夜一夜物語』は、題材として扱う際の自由度の高さゆえに今日の人気を博したのだといいますね。『アラジン』を題する有名なアニメ映画の内容にしても、ガランのそれとはまるで違う。しかし、それを気にする人は多くない。原作など知らないのか、知っていて構わないのか、両手を上げて受け入れる。これこそが『アラビアンナイト』だ、『アラジン』だ、と。この物語集成は、いわば銘々の作り手の、その解釈によって、幾らでも形を変えて人気を得ながら、それでも『アラビアンナイト』ではあり続けてきたわけだ。可塑性というやつがあるのですね。虚像の群像、正体など最早ないような、あるいは全てを正体にしてしまった、千の夜と、もう一夜……

 思いました。そもそも受け取り方によって形を変えない物語など、ひとつとしてないのかも。周りから見れば喜劇でも、当人にとっては悲劇かも――天使のように純粋に見えて、悪魔のように黒いかも。周りから見れば悲劇でも、当人たちには喜劇かも――地獄のように熱くても、恋のように甘いかも。黒が白、でなくとも、灰色や、ひょっとしたら青というように、やはり受け取り方は人それぞれでしょう」
「はい…… 私も、そのように思います」
「ええ…… ん」


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