84: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:05:19.07 ID:LTP9DQ6S0
「そうですか。分かりました」
社長さんはそう言うと、私たちをソファーへと案内する。
85: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:05:45.78 ID:LTP9DQ6S0
今日伺った先生のところは、芸能人がよく行くところだと聞いた。
何らかのきっかけがあって芸能人かあるいはその関係者が診てもらい、その評判が広がって、今のような状態に落ち着いたのだろう。
もちろん先生も商売だろうから、芸能人を受け入れるというのは、特別な配慮をしてもなお『美味しい』と感じる、そういうものがひょっとしたらあるのかもしれない。
いずれにせよ、悪い先生のようには感じられなかった。
86: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:06:14.17 ID:LTP9DQ6S0
「これが、気持ちを前向きにする薬。これが朝晩の二回。それと、寝付きをよくする薬で、これは寝る前に一錠、ですね」
私は会議室で、ちひろさんと薬の確認をしていた。
出された薬は、ミルナシプラン、というものと、エチゾラム、というものだった。
87: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:06:41.19 ID:LTP9DQ6S0
あれ?
今、私、笑った?
88: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:07:07.27 ID:LTP9DQ6S0
おかしくて、笑う。ただ、それだけのことなのに。
当たり前のことなのに。
私にはひどく懐かしく、思えたのだ。
なぜ今ここにきて、私は笑えたのだろう。その理由が私にはさっぱり分からない。
89: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:07:42.19 ID:LTP9DQ6S0
マンションに戻る。夕食は途中のパスタハウスで軽く済ませた。
コップに水を汲む。手には、処方されたミルナシプラン。薄褐色の粒を口に含み、水で一気に流し込んだ。
これで、私はよくなるのだろうか。
90: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:08:32.05 ID:LTP9DQ6S0
目が覚める。正しく、朝になっていた。
本当に睡眠薬の効果は絶大で、私は朝まできちんと眠れたようだ。カーテン越しの朝日を感じつつ、私はベッドから起き上がる。
……よいしょ。
体がものすごくだるい。
91: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:09:04.27 ID:LTP9DQ6S0
『実はですね……楓さんのレッスンは、今週いっぱい禁止になってまして』
「えっ」
『……あはは』
92: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:09:44.88 ID:LTP9DQ6S0
「高垣さん、具合はいかがですか?」
「……先週とあまり変わってない、ですね」
一週間が経ち、私はクリニックに来ている。先生がこの前と同じく、にこやかに尋ねてきた。
93: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:10:23.93 ID:LTP9DQ6S0
「なるほど。夜は、眠れていますか」
「あ、はい。いただいた薬がよく効くので、寝付きがよくなりました」
「ああ、それはよかったです。まずは寝ることから始められて、いいと思いますよ」
「……ありがとうございます」
94: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:10:51.56 ID:LTP9DQ6S0
「お出ししている薬で、気持ちが前向きになるものがあるじゃないですか」
「はい」
「それが効いてくると自然に、ちょっとなにかやってみようかな、と、やってみたくなる気持ちが出てきますから。それを待ってからでも遅くないと思います」
「そうなん、ですね」
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