高垣楓「あなたがいない」
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88: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:07:07.27 ID:LTP9DQ6S0

 おかしくて、笑う。ただ、それだけのことなのに。
 当たり前のことなのに。
 私にはひどく懐かしく、思えたのだ。
 なぜ今ここにきて、私は笑えたのだろう。その理由が私にはさっぱり分からない。
 その心地悪さが、私を不安にさせる。
 本当ならこうして私が笑えるようになったことは、喜ばしいことのように思える。でも。

 ああ、自分が分からない。

「楓さん? 大丈夫ですか?」

 ちひろさんが心配そうに私の顔を覗いていた。

「あ、ああ。ちょっと考え事していたもので」
「とりあえず、いただいた薬はきちんと守って、飲んでくださいね。あとお酒は、しばらく禁止ですよ?」
「ええ? 禁止ですか? ……どうにか『さけ』られませんか、なんて」
「ダジャレでごまかしてもダメです」
「ですよね……」

 心地悪さをダジャレでごまかす。ちひろさんに話をしている自分が、なぜか他人のように思えて仕方なかった。




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