高垣楓「あなたがいない」
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92: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:09:44.88 ID:LTP9DQ6S0

「高垣さん、具合はいかがですか?」
「……先週とあまり変わってない、ですね」

 一週間が経ち、私はクリニックに来ている。先生がこの前と同じく、にこやかに尋ねてきた。

 事務所から一週間のレッスン禁止を言い渡され、かつ、仕事もペンディングやリスケをされて、私は正直途方に暮れた。
 心穏やかに、とちひろさんに言われても、どうやったら心穏やかに過ごせるのか、私にはアイディアがなかった。
 とりあえず部屋の掃除でもしようか、と始めてみたものの、あっという間に息が上がってしまい続かない。
 ああ、これではレッスンなんてもってのほか、ね。私は認めざるを得なかった。
 本を読むにしても、音楽を聴くにしても、集中力が続かない。もっとはっきり言えば、すぐ飽きてしまう。これは私にも誤算だった。
 ここまで集中が持続しないとは思ってもみなかった。そして、頭の中に疑問が湧く。

「いつもなら私、どうやって過ごしてたかしら」

 いつもなら、この言葉の持つ意味が、急に重々しく感じられる。
 どうしていたのだろう、本当に思い出せないのだ。
 そして私は、考えることを放棄して眠ることにする。
 だが惰眠をむさぼれるほど、体は疲れていない。結局眠ることもできずに、ただ悶々とするだけ。
 この一週間できたことと言えば、ご飯を食べることと、薬をきちんと飲んだこと。
 これができただけでも、私を褒めて欲しい。そう思うくらい、一週間が長く感じられた。




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