高垣楓「あなたがいない」
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67: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:26:25.35 ID:+7YhSCXJ0

 午後。
 ちひろさんは私の看病に付いてくれていた。
 あまり食欲はないけれどこれではいけない、と彼女とブランチをともにする。誰かとこうしてプライベートに食事をするなんて、いつぶりだろう。
 いやいつぶりというほど久々というわけじゃない。仕事のお付き合いとか、仲間のアイドルたちに誘われたりとか、一緒に食事に行くことはよくあった。
以下略 AAS



68: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:27:18.40 ID:+7YhSCXJ0

「高垣楓さん、ですね?」
「はい」

 私は今、先生の前で診察を受けている。
以下略 AAS



69: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:28:05.53 ID:+7YhSCXJ0

 受付を済ませ、しばらく看護師さんから質問を受けた。
 曰く。最近眠れてますかとか、食事は摂れてますかとか、お仕事は忙しくないですかとか。
 心配事はありますか、とか。
 心配事? そう言われても、心当たりがない。
以下略 AAS



70: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:28:45.47 ID:+7YhSCXJ0

 そう、今月と来月の休診日が書いてある紙には、今日が休診日と記載されていた。なのに、私は診察を受けに来た。それがどうにも心に引っかかる。
 後でちひろさんに訊いてみよう。
 手近にある雑誌をめくりつつ、ちひろさんを待つ。
 紙コップと温かいほうじ茶も用意されていた。もちろん、セルフだけど。
以下略 AAS



71: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:29:27.46 ID:+7YhSCXJ0

 Pさんを失った直後からしばらくのちひろさんは、それはもうひどく悲しみに暮れていた。
 事務所では気丈に振る舞っていたけれど、誰が見ても痛々しくて、とても見ていられなかった。
 その後、一週間ばかりお休みをいただいたことがある。
 私たちはひどく心配したけれど、それからの彼女は徐々に、本当に徐々にでしかなかったけれど、いつものちひろさんに戻りつつあるようだった。
以下略 AAS



72: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:30:03.99 ID:+7YhSCXJ0

 謎は解けた。つまりこういうことだ。
 休診日というところに、芸能人がお忍びで診察に来る。
 実のところ休診日と謳っているところが、診察日だったのだ。
 今のご時世メンタルクリニックに診察に来ることなど、そう珍しいことではないし、そうやって心の安寧を図ることはあってしかるべきことだろう。
以下略 AAS



73: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:30:59.04 ID:+7YhSCXJ0

「……いろいろ、大変でしたね。今、おつらくないですか?」

 場面は診察室に戻る。私の前にいる先生は、人の好さそうなおじいちゃん先生だった。

以下略 AAS



74: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:31:42.97 ID:+7YhSCXJ0

「なるほど、あまりご飯は食べられてない、ですね」
「いえ、決して食べてないわけじゃ」
「なるほど食べてるんですね。でも、身にならない、と」
「……はい」
以下略 AAS



75: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:32:58.76 ID:+7YhSCXJ0

「……どうし、て」
「ああ、別に超能力でもなんでもないですよ。こういう仕事をやっていますから、高垣さんのような患者さんを何人も、診ているわけです」

 その言葉で、私は頑なだった何かが解ける気がした。
以下略 AAS



76: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:33:54.95 ID:+7YhSCXJ0

「そうですねえ、私のところに来られる方しか存じ上げませんけど、皆さん努力家と思います」
「そうなんです、ね……私はまだまだ」
「いえ。高垣さんも、頑張られている方、そのものですよ」
「え?」
以下略 AAS



77: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/19(土) 15:34:44.80 ID:+7YhSCXJ0

「睡眠はいかがですか? 眠れてますか?」
「そうですね……あまり、眠れてないかもですね」
「なるほど……食欲は先ほど伺いましたし……それじゃ、お仕事」

以下略 AAS



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