高垣楓「あなたがいない」
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51: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:38:02.97 ID:QGubcxXe0

 決して食べていないわけじゃない。あまり食欲が湧かないのだ。
 もちろん体が資本だと分かっている。だから私は、きちんと食べるように努力していた。
 それでも、体重は以前よりかなり落ちていた。食べているのに、増えない。
 私にも分からなかった。
以下略 AAS



52: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:38:40.12 ID:QGubcxXe0

 レッスンでもそうだ。ハードレッスンを受ければ当然、体を酷使する。
 ついていけなければトレーナーさんから指摘されるし、心配もされる。
 だから私はどんなにつらくても、それを顔に出さないよう努力した。

以下略 AAS



53: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:39:09.89 ID:QGubcxXe0

 もう、ごまかしも限界にきていることを、感じずにはいられない。
 疲れ切った体を引きずり、私はマンションへ帰る。送迎はベテランマネージャーが、その役を担ってくれている。

「高垣さん、大丈夫ですか?」
以下略 AAS



54: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:39:37.30 ID:QGubcxXe0

「……ただいま」

 誰もいない部屋。
 私は独り言が多くなった。
以下略 AAS



55: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:40:24.84 ID:QGubcxXe0

 どうしてしまったのだろう、私は。
 Pさんが亡くなった衝撃で、食欲が落ちているのだろうか。
 そういう分かりやすい理由なら、もっと打ちのめされた気持ちになってしかるべきものなのに、私はそこまで悲しくなれない。
 ちひろさんの悲嘆に暮れた顔を思うたびに、私は薄情なのかしらと訝ることもしばしばだった。
以下略 AAS



56: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:41:11.87 ID:QGubcxXe0

「それじゃあ、いただきます」

 冷酒器からお猪口へ、お酒を注ぐ。澄んだ命の水をありがたく、頂戴する。

以下略 AAS



57: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:41:45.02 ID:QGubcxXe0

 味覚が安定しない。自分の舌は、どうなってしまったのか。
 不安な気持ちが膨らんでいく。
 私は慌ててキッチンへ戻り、コップに水を汲む。やわらぎ水で口をリセットし、お酒を呑み始めた。

以下略 AAS



58: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:42:27.42 ID:QGubcxXe0

 翌々日。チームのミーティングでプロデューサーから言われる。

「楓さん」
「はい」
以下略 AAS



59: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:43:12.95 ID:QGubcxXe0

「心配かけてすいません……ありがとう」
「いえ、チームですから」

 プロデューサーが笑う。私の心は晴れなかった。
以下略 AAS



60: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:43:51.89 ID:QGubcxXe0

 ペースダウンを余儀なくされたものの、負荷を軽くしたことが思いもよらず好循環を生む。
 私の歌に鋭さが加わったと、評判が上がったのだ。果たしてそれは、本当に負荷を軽くしたおかげなのだろうか?
 私には実感がなかった。
 私は今までどおり歌ってきたし、なにも変えたところなどない。鋭さと言われても、それがなにを指しているのかさえ、見当もつかない。
以下略 AAS



61: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:44:32.04 ID:QGubcxXe0

 朝。
 いつもの気だるさではなく、妙な重苦しさをもって起き上がる。
 今日はレコーディングに向けてのレッスンだっけ。目覚めを呼び起こすため、シャワーを浴びる。シャワーの粒がピリピリと肌に痛い。

以下略 AAS



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