高垣楓「あなたがいない」
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61: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/18(金) 22:44:32.04 ID:QGubcxXe0

 朝。
 いつもの気だるさではなく、妙な重苦しさをもって起き上がる。
 今日はレコーディングに向けてのレッスンだっけ。目覚めを呼び起こすため、シャワーを浴びる。シャワーの粒がピリピリと肌に痛い。

 昨日の車の中で、私はなにを考えていたのだろう。
 周りの評判と、私の実感。それが乖離していくほどに、私の心は軋みをあげる。
 私はまだ、なにも成し遂げていないし、なにもファンにあげられていない。私は、もっと頑張らなければならないのに。
 ずきり。
 頭が痛む。片頭痛のような痛み。

 待って。私は今日、レッスンがあるの。行かなきゃ。
 私がそう思うほど、痛みが私を苛む。息が上がる。
 その場にへたり込み、私は深呼吸しようと試みる。うまく息ができない。
 意識がなにかに持っていかれるような感覚。
 これは、なに?
 濡れたままの体を引きずり、私はどうにかリビングまでやってくる。バッグからスマホを取り出し、事務所へ電話をした。

『おはようございます。CGプロでございます』
「……ち、ちひろ、さん」
『はい……楓、さん?』
「……ごめん、なさい……だれ、か」
『……楓さん! 楓さん!』

 私は、意識を手放した。

―― ※ ――




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