アルコ&ピース酒井「Black Savanna」
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16: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:04:36.16 ID:z3oD1mZbo
四月。
テレビの仕事が一回、全部吹っ飛んだのが痛い。人によっちゃあ、三週間休みなんてもんが来るような状態だ。あのオードリーですら「連休寄越せ!」とかつい前まで言ってたのに、今じゃ「ほぼ毎日家にいる」とか言ってんだぜ?マジやべえよ。
そんなんでご多分に漏れずオレらも影響を受け、独り身には無駄過ぎるほどにめちゃくちゃたくさん時間が出来たから、料理作ったりなんかギター買っちゃったり、そんでこの時間になーんとなく色々出来るようになっちゃったりしねえかなとか思ったりした。
だから、四月のまだ冷たい風が流れたその日の夜も、まだまだ弾けもしないギターを片手に、オレはベランダに出た。月でも見ながら、ギター持ってタバコ咥えて、こっから見える防衛省を見ながら佇む。なんか雰囲気だけでもかっけーな、えげつねぇカッコ良さじゃね?と勝手にほくそ笑んだ。これでギターがジャンジャカ引けりゃあ最高だろうに。
あ、ギターはガチでちゃんっと練習してんの。やりてーことがあって。買う買う詐欺して、えーと、六年?位引っ張ったけど、まあもういいっしょ、ほんとに時間あるしやらせて欲しいなって思ったからふつーにやってる。人気なさそうなYouTube狙って、毎日毎日ぺんぺんやってんの。これマジで。ちょっとは弾けるようになりたかったから。
17: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:06:06.24 ID:z3oD1mZbo
履き慣らしたシューズで街を歩く。
夜の街は、今までよりも半分以下の人の出方だった。まあ、そうだろうなって思っちゃう。気を付けよう、って言ってる時だったから。オレもほんとは出ちゃいけないんだろうが、こればっかりは見逃してくれよと思い足早に道を行く。
いつも見る時は車道挟んだ向こう側にある、あのビル。今日はその真ん前に立っていた。
ビルはどこもかしこも光がなく寝静まっている。生命がひとつもないように、しんとしていた。真正面の、正門的なとこは閉まっていて、名前はよく分かんねえけど両側からガラガラって出てくるシャッターみたいなんがある。
さっきのキラキラは、間違いねえ、ここに来たんだ。妙な確信があった。
18: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:06:40.75 ID:z3oD1mZbo
「何をしている」
や、うそ。やべぇ。誰かいた。
突然敷地内の方から、短めの声がした。
19: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:07:50.13 ID:z3oD1mZbo
オレの脳が理解を拒む。知ってる人だけど、全然こんなの知らない。気張れオレ。夜でも昼みたいに目ぇ開けて、その正門の向こうっ側をちゃんと見てろ。
それでもこの状況には全然理解が追いつかなくて、世界は死んだように凍りつく。張り詰めた緊張感と、何だかどんよりした厭な臭いの張り付いた空気が揺れる。
「なんだよ……なんなんだよ、アンタ何なんだよ」
20: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:08:37.08 ID:z3oD1mZbo
「UMAはいんのよ」
「いや、オレUMAはいねぇと思うよ」
そんなこんなで、さらに数日経過して四月の中旬。そう、UMAがいるとか、デケェ蟻見たとか、そんな話をした日まで話がやっと戻ってくる。
21: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:09:36.37 ID:z3oD1mZbo
だけどなんで今、と質問しようとしたところ、その答えはこちらからわざわざ聞くまでもなく返ってくる。
「一ヶ月前位かな。晩酌しようと思ったら酒が無いのに気付いたから、夜だけどコンビニ行ってくるわって嫁に言って、家出たのよ。したら、その行きの道で、見たんだよ」
「白いガキすか」
22: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:10:15.54 ID:z3oD1mZbo
「だろ?そうなるよな?俺もそうなったの。なんでネズミ?って」
「まあ、はいそうですね」
「もう視線が忙しくなっちゃって。ネズミ見て、子供見て、でもっかいネズミ見て」
23: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:11:36.47 ID:z3oD1mZbo
その質問に平子さんはちょっとだけ迷って、声を潜め「信じてくれるか?」とだけ聞いてきた。
……いや……そりゃさ……アンタを信じてないことの方が多いし、そりゃさっきの話だってにわかには信じ難い事だけれど、顔がガチでやべぇ事んなってたから思わず頷くしかないわな。
近寄れ、と手招きされる。三密は……と思ったけど、そっと近付く。さらに声を静かにして、オレらふたり室内で密談。意味はあんのかねえのか、よく知んないしやる必要ねえんかもしれんけど。
ひっそり声が、地面を馴らす重機みたいに重低音でオレの鼓膜を揺さぶって、尋ねてくるんだ。
24: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:12:43.11 ID:z3oD1mZbo
「それとも───」
そしてこんなタイミングで、思い出す。
ああ、あの時の、二年前の、悪ふざけが過ぎたイカレトークを思い出す。
足はえー子供を作り出す計画、そしてその大元の計画。
25: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:13:50.82 ID:z3oD1mZbo
え?じゃあ……政府に隠れてた作戦が実行されて、それに気付いてんのがオレらだけってこと?
でもそれさ、だいたい、オレらだけ気付いたところでどうすりゃいいか分かんなくない?
世界は救えないよ、ラジオじゃ。
なにも出来ねえよ、オレらじゃ。
26: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 20:14:59.19 ID:z3oD1mZbo
「じゃま、お疲れ様でした。先帰りますわ」
「お疲れさん」
長い廊下を歩いていた。帰り道、不思議とスタッフもキャストも誰もいない。しんと静まっていて、だけど照明は付いてるから妙に明るくって。
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