2:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:37:38.82 ID:XnGtX3Tv0
怖いくらいに鮮やかな、夕焼けだった。
夕日が少女を照らし出すも、鮮やかな光とは裏腹にその顔は俯き陰っていた。
腰まであろう程の長く艶やかな髪、裕福で高貴な家柄が覗える衣、
慣れ親しんだこの神社の階段に少女が独り、膝を抱えて座り込んでからもう数刻は経っただろうか。
3:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:40:22.13 ID:XnGtX3Tv0
先日、その日分の座学が終わった後に家の書庫に忍び込んだ時だった。
国の中枢とまではいかないにしても近い地位にある家のせいかその蔵書量もなかなかのものであり、辺境の民家よりも下手をすれば大きい程の書庫にずらりと並ぶ書物の林は、まだ幼い紗枝でなくても圧倒されることだろう。
当然、紗枝の興味をひかないはずがなかった。
元々座学は嫌いではなかったし、むしろ今は好奇心真っ盛り。
未知の世界が具現化したかのようなそこで手当たり次第に読み漁った。
4:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:49:18.71 ID:XnGtX3Tv0
「どーしたん?今日は元気ないやん」
あまりに突然で、固まってしまった。
突如、いや、いつの間にか目の前にしゃがみ込みこちらを見上げる者に全くもって気が付かなかった。
足音も気配すらもしなかった、まるで降って湧いたよう……否、最初からそこにいたかのような。
5:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:51:47.26 ID:XnGtX3Tv0
「いやいや、そんな見つめられても困ってまうやん」
「え、あ、えっと、ごめんなさい」
「そんな謝らんでええよー」
6:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:52:38.32 ID:XnGtX3Tv0
「せやったら、何がいい?他にもいろいろあるんよ」
「……なまえ」
「名前?」
7:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:56:15.59 ID:XnGtX3Tv0
◆
8:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:57:39.33 ID:XnGtX3Tv0
「ほんならこれにでも書いたら?」
そう言うとシューコは帯の隙間から葉を取り出して紗枝に渡す。
そう、紙ではない。葉である。
9:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:59:30.97 ID:XnGtX3Tv0
紗枝達が住まうこの国、『霞皇国』は街並みやら行事こそ古風な伝統を尊重しているものの文明に関して他国に大きく後れを取ってなどいない。
イルミネイト王国のような特殊な物資が無くとも下々の民家にもきちんと明かりは灯るし今や洗濯とてボタン一つで乾燥まで終わる。
クローネ帝国ほど国土も人口も大きくはないが経済は安定しているし軍事力もそれなりにある。
最近帝国が作ったという空飛ぶ鉄馬は作れないが空を往く移動手段はあるしそのための空港も最近新しくなった。
10:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:00:24.60 ID:XnGtX3Tv0
「おっと、そろそろ街も近いからこの辺でええ?」
紗枝が気が付くと、既に見慣れた街並みだった。
葉に気を取られていたが気付かぬ内に随分と早く帰ってこられた。まだ空に一番星は見えていない。
11:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:03:30.30 ID:XnGtX3Tv0
◆
雨季に差し掛かろうかという頃。すっかり山の木々は生い茂り夜には蛙の鳴き声も目立つようになってきた。
12:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:05:15.45 ID:XnGtX3Tv0
紗枝はシューコにあの日以来会っていない。
帰りが遅くなったせいでしばらく監視の目が厳しくなったり稽古が長引いたり天気が悪かったり
理由は様々あれどさすがに日を空けすぎたかもしれない。そろそろ一月近く経ってしまう。
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