周子「だから、あたしが逢いに往く」
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3:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:40:22.13 ID:XnGtX3Tv0
 先日、その日分の座学が終わった後に家の書庫に忍び込んだ時だった。
 国の中枢とまではいかないにしても近い地位にある家のせいかその蔵書量もなかなかのものであり、辺境の民家よりも下手をすれば大きい程の書庫にずらりと並ぶ書物の林は、まだ幼い紗枝でなくても圧倒されることだろう。
 当然、紗枝の興味をひかないはずがなかった。
 元々座学は嫌いではなかったし、むしろ今は好奇心真っ盛り。
 未知の世界が具現化したかのようなそこで手当たり次第に読み漁った。

 ―――と、ここで彼女は今日の記憶を振り払う。
 こんなにも強く瞼を閉じたことは今まで無かっただろう。
 見なかったことにしたくて、嘘だと思いたくて、忘れ去りたくて、それでもなお脳裏にこびり付いて離れない。
 急に書庫が怖くなり、かと言って母屋にいても落ち着かず、こうしてこの神社まで飛び出してきたのだった。
 以前から度々通っていて心落ち着く場所なのでそれを頼りに来たのだが、そう簡単にいくはずもなく。
 未だこの場からなかなか家に帰る気になれずにいるのもそれが理由だった。

 それでも空は少女の事情など知る由もなく。日は山に、桃は紫に、じわりじわりと食われていく。
 この日何度目かも分からぬ溜息を漏らして、ゆっくりと瞼を上げる。


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