5:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:51:47.26 ID:XnGtX3Tv0
「いやいや、そんな見つめられても困ってまうやん」
「え、あ、えっと、ごめんなさい」
「そんな謝らんでええよー」
ケタケタと笑う彼女の髪の穂先が、その首元あたりで僅かに揺れる。
「えっと……どちらさんどすか?」
「うーん、誰やろうね」
「えぇ……?」
「誰でもええやん、気まぐれなおばぁ……お姉さんとでも」
そう言うと立ち上がり、紗枝の隣に腰掛ける。
ふわりと袂がはためいて、微かな香りが紗枝の頬を優しく撫でる。
あまり覚えのある香りではなかったが、それでも何故か心が落ち着くようで。
「そんな俯かんとさ、これあげるから、ね?」
紗枝の目の前に掌が差し出される。
その手には赤くて小さな実がいくつか、確かこれは……
「……ぐみ?」
「お、あたり!お嬢ちゃん物知りやね〜ご褒美にいくつか食べてええよ」
「でも……」
「ん?」
「それすっぱいからいやや」
「ははは。まぁ、まだそうなるよなー」
そう言って差し出した手を引っ込め、載せていた実を一気に口に放り込む。随分と美味しそうに食べるものだ。
紗枝はまだ酸っぱい物や苦い物がなかなか食べられずにいた。
勿論、家での躾の一つとして安易な好き嫌いは咎められはするのだが、
それでも飲み込むのになかなか覚悟のいる品が食卓に並んだ時には少し物怖じしてしまうのだった。
大人になったら美味しさが分かるよ、などと祖父が言っていたが、今の紗枝には関係ないことだった。
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