周子「だから、あたしが逢いに往く」
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7:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 18:56:15.59 ID:XnGtX3Tv0





「さえちゃんかー、ええ名前やん」

 辺りが暗くなり始め、見下ろす先の民家の窓にも明かりが灯る頃
 シューコに連れられて紗枝は長い階段を下っていく。
 紗枝にとって見知った場所であるはずなのだが、暗くなってから通るとなんだか遠い道のりに感じた。
 思いのほか長居してしまい、夕日が沈む前に帰るようにと言いつけられている紗枝としては自然と早足になってしまう。
 あまりに遅いと祖母の雷が落ちるのだ。

「なんか良いね、冴えてるって感じで」

 シューコとしては誉めているつもりなのだが、名を音でしか認識していないであろうことが紗枝には引っかかってしまう。

「うちの名前はそういう意味とちゃいます」

「えーそうなん?せやったら、どういう意味なん?」

「それは……えーっと……」

 自分の名前といえども、いざその意味を訊かれるとすらすらとは答えられないものだ。
 特に紗枝としては難しい質問だった。一言で言い表せる訳ではないのだ。
 それに、以前母が教えてくれたそれは当時の紗枝としては少々難しい話であった。
 正直言うと、文字毎のなんとなくの意味合いや印象しか覚えていない。
 だが、少なくとも『冴える』という意味ではない。

「書いた方が早いんやけど……」

 書いて見せて、その文字の意味を教えようと思いついた。言葉で全て説明するのはきっと難しい。
 誰かに説明する機会など無かったのだ。
 だがそれぞれの文字の意味なら知っている。
 紗枝は最近、画数の多い自分の名前を書けるようになったのだ。紗枝の密かな自慢の一つである。


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