スタートダッシュ
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6:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:22:37.40 ID:QhrXPTvL0

 わたしは、
 彼女と、
 彼女のとなりを、もしくは少し前、少し後ろを、走りたい。

以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:23:45.17 ID:QhrXPTvL0


 幼い頃からわたしは足が速かった。

 幼稚園のかけっこも、小学校の徒競走も、男女問わず敵はいなかった。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:24:16.14 ID:QhrXPTvL0

 好きは主観的なもので得意は客観的なものだ、とそんなことを昔どこかで聞いた。

 主観的に見るのは簡単だ。わたしは走ることが好きでも嫌いでもない。さっきの通りスタートとゴールがある競技的な短距離でさえ途中で冷める。
 だからマラソンなんてもってのほかだ。でもそんなに嫌いではない。根本的に好きとか嫌いとかそういうものじゃないんだと思う。走ることって。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:25:10.29 ID:QhrXPTvL0

 昼休みはたいていひとりでふらふらのそのそと、購買にパンを買いにいく。

 適当に目に付いたのを二つ手に取って、ついでに冷ケースから飲み物を取る。
 それが半ばルーティン化しているから、購買のお姉さんに顔を覚えられているらしく、小銭を出すときにいつも目が合う。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:25:44.68 ID:QhrXPTvL0

 近頃のわたしはちょっと変だから、そんな大して面白くもなんともないことに口元が緩む。
 で、数秒経って、何もないところで笑ってるのってやばくないかわたしよ、と真顔になる。
 あたりを見回す。友達にでも見られていたらだいぶ変な人としてわたしの認識がアップデートされかねない。

以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:26:18.13 ID:QhrXPTvL0

 自動販売機を通り過ぎ、階段をスルーして、渡り廊下に差し掛かったところで彼女がこちらを振り向く。
 今度はじとっとした目だ。こういう目は何度も見たことがあって、また勝手に口の端が緩む。

 彼女はわたしの頭からつま先までをつーっと見渡して、ため息をこぼした。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:26:51.39 ID:QhrXPTvL0

 彼女と出会ったのは、高校に入学してすぐのことだった。

 特にこれという波も乱れもなく中学を卒業したわたしは、それなりに勉強をしていたのもあって、それなりに名の通った高校に進学した。
 推薦は何個か来ていたけれど、すべて断った。親は不満そうにしていて、でも無視した。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:27:36.01 ID:QhrXPTvL0

 いつものように事務室で部室の鍵を借りようとしたら、もう貸したよと言われて、部室に行ってみたら彼女のバッグがあったり。
 朝練の前にバランスボールで遊んでいるのを見られたら、その次の日からは彼女が先にトレーニングルームにいたり。
 練習後にお互い帰る方向が同じで、のほほんと自転車を漕いでいたら無言でスピードを上げて追い抜いてきたり。

以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:28:08.25 ID:QhrXPTvL0

 来月に地区、県、地方と続く大会を控えたある日の練習後に、ほぼ初めて彼女から話しかけられた。

『ねえ、走るのってそんなにつまらない? 楽しくない?』

以下略 AAS



15:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:28:46.66 ID:QhrXPTvL0

『私は、楽しいよ』

『え?』

以下略 AAS



16:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:29:19.86 ID:QhrXPTvL0

 あの出来事から一年と一月が経過しても、わたしは変わらず彼女のことを考えて、トラックを走る彼女を眺めていた。
 購買ですれ違って以降、彼女と正面から顔を合わせる機会は一度もなかった。クラスが違うし、あまり校内を出歩かなければ当然。
 変わったことと言えば、購買のお姉さんと話すようになったことくらい。今までよりも豆乳が売れるようになったらしい。

以下略 AAS



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