スタートダッシュ
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10:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:25:44.68 ID:QhrXPTvL0

 近頃のわたしはちょっと変だから、そんな大して面白くもなんともないことに口元が緩む。
 で、数秒経って、何もないところで笑ってるのってやばくないかわたしよ、と真顔になる。
 あたりを見回す。友達にでも見られていたらだいぶ変な人としてわたしの認識がアップデートされかねない。

以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:26:18.13 ID:QhrXPTvL0

 自動販売機を通り過ぎ、階段をスルーして、渡り廊下に差し掛かったところで彼女がこちらを振り向く。
 今度はじとっとした目だ。こういう目は何度も見たことがあって、また勝手に口の端が緩む。

 彼女はわたしの頭からつま先までをつーっと見渡して、ため息をこぼした。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:26:51.39 ID:QhrXPTvL0

 彼女と出会ったのは、高校に入学してすぐのことだった。

 特にこれという波も乱れもなく中学を卒業したわたしは、それなりに勉強をしていたのもあって、それなりに名の通った高校に進学した。
 推薦は何個か来ていたけれど、すべて断った。親は不満そうにしていて、でも無視した。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:27:36.01 ID:QhrXPTvL0

 いつものように事務室で部室の鍵を借りようとしたら、もう貸したよと言われて、部室に行ってみたら彼女のバッグがあったり。
 朝練の前にバランスボールで遊んでいるのを見られたら、その次の日からは彼女が先にトレーニングルームにいたり。
 練習後にお互い帰る方向が同じで、のほほんと自転車を漕いでいたら無言でスピードを上げて追い抜いてきたり。

以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:28:08.25 ID:QhrXPTvL0

 来月に地区、県、地方と続く大会を控えたある日の練習後に、ほぼ初めて彼女から話しかけられた。

『ねえ、走るのってそんなにつまらない? 楽しくない?』

以下略 AAS



15:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:28:46.66 ID:QhrXPTvL0

『私は、楽しいよ』

『え?』

以下略 AAS



16:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:29:19.86 ID:QhrXPTvL0

 あの出来事から一年と一月が経過しても、わたしは変わらず彼女のことを考えて、トラックを走る彼女を眺めていた。
 購買ですれ違って以降、彼女と正面から顔を合わせる機会は一度もなかった。クラスが違うし、あまり校内を出歩かなければ当然。
 変わったことと言えば、購買のお姉さんと話すようになったことくらい。今までよりも豆乳が売れるようになったらしい。

以下略 AAS



17:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:30:19.39 ID:QhrXPTvL0

 彼女はわたしの姿を捉えてまた何か言いたげに口をぽかんと開けたけれど、この前みたいに足を止めることはなかった。
 でも、わたしが振り向くと彼女もこっちを振り向いていた。目が合うと、なぜかそっぽを向かれる。

「あのさ」
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:30:47.25 ID:QhrXPTvL0

「本気で言ってる?」

 彼女は本当に困惑したように表情を硬くする。間髪入れずに頷きを返すと、彼女は見て分かるくらいに狼狽えた。
 ゆらゆらと、短い髪が揺れる。その拍子に見えた耳元と、首筋が、ほのかに朱色に染まっていた。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:31:19.54 ID:QhrXPTvL0

 もっともらしい理由が一つでもあれば、多少は自分を偽ったりもできるのだろうと思う。

 そうすることが選べてそうするのと、そうせざるを得ないからそうするとではまるっきり違う。
 自分のことは自分が一番に分かっていて、だからこそ周囲には隠して、がんばって取り繕おうとしていた部分もあった。大抵わたしが我慢したり黙っていれば済むことなのだから、わざわざ他者の手を煩わせるわけにはいかない。自分のことには自分で責任を負いたい。この程度のことなのだから。
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[saga]
2020/02/09(日) 02:32:11.26 ID:QhrXPTvL0

 足を痛めるような走り方を直していこう。これで学んだだろう、もっと速くなれるよ。がんばろう。
 一度伸びたものはもとには戻らないと知っていた。その場で、部活を辞めることを顧問に告げた。

 少し経ったときに、親はわたしに「まだよかったじゃない」と言った。
以下略 AAS



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