107: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/12(土) 23:05:58.06 ID:L3t7G6Qz0
既に彼女たちは接敵、交戦していた。ヲ級を筆頭に、重巡、軽巡、駆逐の群れ。
不知火が魚雷を発射しながら、追随するように速度を上げる。ポーラの火砲が軽巡の頭を正確に打ち抜き、行動停止に。その隙間を不知火は駆け抜けて、一閃、駆逐を吹き飛ばす。
孤立した不知火を追うイ級たちを、大鷹の放った戦闘機がきっちり仕留めていく。ヲ級も杖を振るい、丸い悪鬼の群れを召喚したが、大淀とグラーフが既に立ちふさがっていた。
108: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/12(土) 23:08:56.40 ID:L3t7G6Qz0
グラーフはヲ級と物量でぶつかりあっている。腰に結わえられたポーチからカードを数枚ずつ取り出し、消耗の度合い、空中戦での優劣、弾幕の濃淡を見ながら、適宜艤装のホルダーへと差し込み実体化、射出していく。
対して大鷹は質と精密性で攻めていた。驟雨のような弾幕、蝗害さながらに黒く染まった空、その間を十機の戦闘機が最高速度のままに駆け抜けて、一目散に敵を目指す。十本の指でそれぞれを立体的に操るその手腕は、人間業ではない。
そして戦場の全てを操っているのが大淀そのひと。味方四人に指示を出しながら、自らも最適な場所へと位置どることで、敵すらも含めた全体の配置、誰と誰が戦うのかさえコントロールしていた。
109: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/12(土) 23:12:21.76 ID:L3t7G6Qz0
「あいつらについていける自信はあるか」
「あります」
110: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/12(土) 23:13:36.52 ID:L3t7G6Qz0
私はそれから交戦規定や契約書類、または過去の戦闘記録などをどっさりと渡された。まだ体は本調子ではない。海は出られるが、連携の訓練などもしていないのに、すぐ任務に就けとは後藤田提督も言わない。
少なくとも精密検査が済むまでは彼ら、CSAR「浜松泊地」のルールや戦術を学ぶことこそが、私にできる精一杯の努力だろう。
それから三時間後、帰還した五人はひとりの救助者を担ぎ上げていたが、彼女たちの顔は重苦しかった。
111: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/12(土) 23:14:18.85 ID:L3t7G6Qz0
――――――――――――
ここまで
112:名無しNIPPER[sage]
2019/10/13(日) 13:18:13.58 ID:jFScMsXso
乙
113: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/14(月) 21:33:40.58 ID:UFSxYV+50
誰一人として泣いていなかった。泣いてなぞいなかった。
泣いていないだけではあった。
私はCTスキャンの中でじっとしながら、最近はことあるごとにあの日の、あのときのことばかり考えているような気がして、身震いをする。秋の早朝のような寒気が体の内と外を取り巻いている。
114: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/14(月) 21:35:40.68 ID:UFSxYV+50
後藤田提督は私が怒っているのだと言った。その表現は腑に落ちて、もし真実だとするのならば、きっと私は諦めが悪いのだろう。諦めの全てを姉さまに吸い取られてしまったのだろう。だからこうも怒れる。
この世に蔓延る不幸の数々に我慢がならない。
大丈夫ですか? どこか痛みますか? 看護師が私の顔を見て、心配そうに言った。無意識のうちに顔を顰めてしまっていたかもしれない。かぶりを振って、大丈夫ですと答える。
115: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/14(月) 21:37:27.34 ID:UFSxYV+50
「窮屈だったわ。身動きもあまりとれなかったから」
「そうですか。体の調子はどうです? 生活に支障なくとも、本調子ではないですか?」
116: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/14(月) 21:39:47.43 ID:UFSxYV+50
「買い物は最後にするわ。重たい荷物を持っての移動は避けたいし」
そもそも、物欲は少ない方だ。幼少のころから欲しいものが手に入ることは稀だった。私も姉さまも、暇を紛らわすのはもっぱらふたり遊びで。
と、ぐうぅ、大淀の腹が鳴った。盛大に。
117: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2019/10/14(月) 21:46:28.23 ID:UFSxYV+50
「なら話が早い。国村一佐はガチガチの現場主義者ではありますが、かといって彼の独断専行を許さない派閥も確かに存在しています。空軍に手を借りるなんてもってのほかだ、なんて輩も。
そこで私の出番というわけです。艦娘という存在が、決して海軍の手から離れないように、空軍の手に渡らないように、目を見張らせろと……眼鏡を光らせろと」
くふ、と大淀はまたも笑う。
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