3: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:12:06.52 ID:FCK0uUJh0
だから俺だけは俺を信じてやれる。俺にはやりたいことがある。アイドルのプロデューサーってものが、俺はやりたいんだ。
何を一人前にって思うかもね。俺みたいな半人前には無理な夢だって。俺だってそう思う。客観的に見ればその通りだ。
けど、夢だ。だから諦めない。当然お袋と親父には反対された。それでも俺は曲げなかった。たった一度の人生だ、賭け金としては安いかもしれない。けれどそれでも博打を打ってみたかった。
4: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:13:20.97 ID:FCK0uUJh0
□ ―― □ ―― □
『うーん、駄目か……。まあそうだろうと思ったけど』
5: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:13:48.95 ID:FCK0uUJh0
「我々が売るべきものは顧客の夢だ。君の夢ではない」
……結局芸能プロダクションへの就職活動は二十連敗を超えたあたりで数えるのをやめた。だから別の道を探すことにした。だったら俺がプロダクションを作ればいいんだ、と。
限りなく名案だと思った。別に大きなプロダクションである必要はない。俺と、アイドル一人だけのプロダクション。そんなちっぽけなものでも俺の夢は果たせるはずだって。
6: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:14:15.59 ID:FCK0uUJh0
『……もう一年ない、か』
上京するとき、お袋と親父に誓った期限がある。それが四年だった。今年中に俺はプロデューサーにならないといけない。もし出来なければ……田舎に帰って家業を継ぐことになるのだろう。
継げるものがあるだけ恵まれている方だ、なんて思いながら扇風機をつけると、ごろんと部屋に寝転がって天井を見る。
7: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:15:21.85 ID:FCK0uUJh0
『……“アイドル”だよなあ。やっぱり』
こんな動画よりもずっとずっと、俺の脳裏には彼女の姿も声も鮮明に残っている。とても綺麗だった。もちろん容姿という意味でもある。そして心地の良い声の持ち主だった。だから惹かれたのだとは思う。
けれどもそれが本質ではなくて、彼女にはどうしようもなく抗えないまぶしさ、説明のできない魅力があった。俺が決して持ち合わせることのないそれ故に、彼女は紛れもなく偶像《アイドル》なのだと思った。
8: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:16:11.11 ID:FCK0uUJh0
『うだうだ考えてないで、もう一回出かけるかな』
それでもいい加減、何か成果を出したいと思っている。いや、そんなものは三年も前からずっとだ。一応、数少ない人脈を伝って小さなインディーズレーベルと懇意にさせてもらっている……と俺は思っているけれど、それは成果とはとても言えない。
プロデューサーとしてのいろはさえ知らなかった俺に、ちょっとしたアドバイスをしてくれた人たちというだけだから。ちなみに二回目からは講義料を取られた。その分しっかりとは教えてくれたけれど。
9: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:17:02.03 ID:FCK0uUJh0
□ ―― □ ―― □
10: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:17:29.59 ID:FCK0uUJh0
最初はスられたとも思ったのだけれどあんな型落ちもいいところのケータイ、金を貰ったって欲しがる人はいないだろう。だが俺にとってはかけがえのないケータイだった。あの動画を見れるのは、あのケータイだけなのだから。
(……こんなことなら早々に買い替えておくべきだったかな。ああ、ちくしょう)
今更悔いても仕方がない。一縷の望みをかけて最寄りの交番へと向かいながら、俺は嘆息する。もっとも、あのデータをどうにかして残しておく術は限られていたと思う。型落ち過ぎて吸い出す手段はないだろう。
11: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:18:30.13 ID:FCK0uUJh0
(あの様子じゃ多分届いていなさそうだな……)
そんな風に悲観的に考えつつ、とりあえず傍のパイプ椅子に腰を掛けた。それから三分ほど経つ。お巡りさんはまだ戻ってこない。
『やっぱり駄目そうだな……』
12: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:19:01.49 ID:FCK0uUJh0
(――この子しかいない)
うわごとのように俺は思う。そして声を掛けようと思って……今自分のいる場所を思い出す。交番だ。ああ、くそ。流石にそこまでネジは吹っ飛んでいない。喜ばしいことだ、多分。でも、ちくしょう、この機会を逃すわけには。
そんな葛藤を抱いている俺に彼女も気付いたらしい。ただ、単に先客として扱われたのだろう、軽く会釈だけを俺に向けてから覗き込むように交番へと入ってくる。
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