4: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/01(木) 23:13:20.97 ID:FCK0uUJh0
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『うーん、駄目か……。まあそうだろうと思ったけど』
初夏もすぎもうすぐ夏だと宣言するような日差しが、せせら笑うように俺を襲っていた。昨日の雨のせいか、妙に蒸し暑いのも不快指数を跳ねあげている。
手に持つ携帯電話――今ではもう絶滅危惧種と化したガラケーのメールアプリに浮かぶ、新着なしの文字。俺は来るはずがない連絡が来るのを待ち続けている。
『アイドルをやりませんか!』
ここ数日、そうやって声をかけたアイドル候補の女性たちを思い出す。そもそも話を聞いてもらえなかったのが大半で、ナンパかキャッチだと思われてでも話を聞いてもらい、押し付けるように連絡先を書いた無地の名刺を渡したのが二人。
どちらも迷惑そうに受け取っていたから、新手の詐欺と思われて通報されなかったのが幸運だったと思うべきなのかもしれない。
俺は額に浮かんだ小さな汗をぬぐうと、ガラケーを閉じてアパートの鉄階段を登り、突き当りの一室、二〇四号室の鍵を開けた。扉の向こうは埃っぽい、1Kの小さな部屋だ。
高校卒業後、上京してからもう三年以上経つ。夢への道は果てしなく遠い。プロデューサーどころかスタッフにさえなれてもいない。
最初はシンプルな話だと思った。芸能プロダクションに新入社員として入ってプロデューサーになればいいと。だから履歴書を送った。そのほとんどは無駄に終わったが、中には面接に進めることもあった。
けれどどこも採用してはくれなかった。俺の夢を告げた時の面接官の言葉は記憶に新しい。
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