【ミリマス】私という撫子の
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14: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:19:44.49 ID:RAUxaTtJ0
『あら、エミリー。ヤマトナデシコっていうのはね……』
『なれるよ。エミリーなら』

 お母さんの言葉を遮ってお父さんが私の頭を撫でる。その手はあたたかくて優しくて、いつか本当になれる気がした。

以下略 AAS



15: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:21:01.21 ID:RAUxaTtJ0
 なんかちがう。

 第一印象はそういうものだった。

 Kimonoを着ているというよりもKimonoに着られているみたいで。さっきの人のような美しさはどこにもなくて。なにより鮮やかな赤色に黄金色の髪の毛はひどく浮いていた。
以下略 AAS



16: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:22:08.10 ID:RAUxaTtJ0
 ❀
 
 その日から私は人が変わったように日本のことばかりを調べるようになった。父が日本を好きということもあって一歩を踏み込むのは容易かった。

 初めは語学からだった。
以下略 AAS



17: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:22:58.93 ID:RAUxaTtJ0
 だけど現実はすぐに花開くほど甘くも優しくもなくて。
 私のそれは花どころか芽すら出ない。憧れの花は部屋の中にこうしてあるはずなのに何故だか遠くて、靄がかかっているようによく見えなかった。
 
 日本語を学ぶのは楽しいけれどそれと同じくらいに難しい。そんな言語の壁はどうしようもなく高いものだったけれど、これを乗り越えなければ芽は絶対に出ないのだと言い聞かせて必死に勉強する。

以下略 AAS



18: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:23:35.81 ID:RAUxaTtJ0
 どちらかと言えば負けず嫌いだった私はうまくなりたい、という気持ちも相まって一層勉強に励んだ。家に帰っては日本語の教科書と学習書を読み込んだ。休日にはお茶を点てて父に飲んでもらった。時間が空いたときは正座をして慣れようとした。着物を綺麗に着られるように練習した。

 おかげで部屋中の日本語の本は付箋だらけで、辞書はすっかり開ききってしまって。一畳だけ用意してもらった畳はいつも座っている部分だけが変色してしまって。部屋の中は日本のものであふれかえった。



19: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:25:52.54 ID:RAUxaTtJ0
 そういう努力をするのは決して苦しくない。自分が望んでやっていることなのだから楽しいとさえ思える。

 だけど、果たしてこの努力が本当に大和撫子へと繋がっているのかはわからない。

 父も母も努力すればいつかはなれるよと言ってくれるけれど。
以下略 AAS



20: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:28:00.30 ID:RAUxaTtJ0
 大和撫子という言葉を調べるたびに出てくる「日本人女性」の文字にため息をついた回数は数知れず。学校で日本語を話して「外見がそんな風なのにおかしい」と笑われたことだってある。
 日本語が上達しても相変わらず着物は似合わなくて、和服を着るたびに鏡の中で私だけが浮いていた。あの頃から何も変わっていない。

 自分の外見を恨んだことがないと言えば嘘になる。雑誌や本で見る大和撫子と呼ばれる人はいつだって濡羽色のつややかな髪だった。

以下略 AAS



21: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:29:09.92 ID:RAUxaTtJ0
 でも、どれほど努力をしたところでどうにもならないことがこの世にはあるのかもしれない。
 私みたいな英国人が大和撫子になるなんて最初から無理な話なのかもしれない。
 だって外見がこうだ。いくら覚悟を決めても、意地を張っても事実は事実のまま変わることはなくて。
 花は咲かない。芽も出ない。土を汗と涙で湿らせているだけのこの花が咲く日など訪れるのだろうか。

以下略 AAS



22: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:30:44.44 ID:RAUxaTtJ0
 だからといって大和撫子を諦めることもできなくて。あの日感じた胸の高鳴りを忘れることができなくて。日本語を勉強し続けた。日本舞踊も、独学の茶道も続けた。
 今さら、この道を引き返すことはできなかった。振り返っても暗闇の道をそうできるほど私は強くも弱くもなかったのだ。

 そうして迎えた十二歳の夏。

以下略 AAS



23: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:31:41.66 ID:RAUxaTtJ0
 赴任。

 知っている言葉だったけれど飲み込むのに時間がかかる。頭の中で赴任の意味を検索した。赴任とは、新しい勤務地に赴くことという意味で。
 だからつまり。

以下略 AAS



24: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:32:34.95 ID:RAUxaTtJ0
 ❀
 
 小さな不安は消えないまま。十三歳の春、家族で日本に引っ越した。

 ようやく地面を踏んだ日本は思っていたよりも洋風だった。都会には高い建物が立ち並んでいるし、少し道を外れてみても木造住宅よりも鉄筋でできた住宅ばかり。
以下略 AAS



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