36: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 21:12:36.05 ID:9pdDfgPfo
*
窓の外が暗くなったころ、父親と一緒に帰宅するエミリーを見送った後の事務所には俺と伊織だけが残った。
もうしばらくが経過して、今度は伊織も自分の用事を終わらせ、電話で迎えの連絡を入れているようだ。
37: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 21:13:45.18 ID:9pdDfgPfo
「こう言っちゃなんだけど……私、あの子はもっとショックを受けると思ってた」
「ショックって……日本語を忘れちゃったことに対してか? もちろん悲しそうにしてたぞ」
「それはそうなんだけど……いえ、決していつまでも落ち込んでいてほしいわけじゃないのよ。 ただ……妙に立ち直りというか、割り切りが早いというか」
38: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:19:23.99 ID:9pdDfgPfo
*
別の日、エミリーを最初に診てもらった病院で改めて脳の検査をしてもらったが、やはり目立った異常はないらしい。
現状報告もかねて挨拶へ向かうと、先生は「いい傾向のようですね」と安心した様子だった。
39: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:20:45.36 ID:9pdDfgPfo
「プロデューサー、久しぶり!」
「だな。 今日はよろしく」
「《エミリーも、よく来てくれたな》」
「《お久しぶりです》」
40: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:21:55.96 ID:9pdDfgPfo
咄嗟にたじろいだもののだんだんと理解の追いついてきたエミリーは、振り返って歩を見た。
「──ま、ズバリ“765プロ英会話教室”ってとこかな」
「なるほど。 そんなことをやってたのか」
41: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:23:46.66 ID:9pdDfgPfo
「たまきわかった! 今、『元気です』って言ったぞ! あと、『ありがと』って!」
「おぉ〜……歩さん、エミリーちゃんと、言葉通じたよぉ。 こりゃうれしいねぇ」
「いいぞーひなた、頑張って練習したかいがあったな」
42: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:24:18.81 ID:9pdDfgPfo
「じゃあ、これからもエミリーとおしゃべりするために、英語の勉強がんばるぞ〜! エイエイオー!」
「エイエイオー!」
「エイ、エイ、オー!」
43: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:25:11.33 ID:9pdDfgPfo
*
事務所での勉強会を始めてから一週間が経った。
44: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:25:53.44 ID:9pdDfgPfo
だが学習の効果はそこでピタリと止まった。
翌日を境に、そこから何日待てども勉強の成果が一切出なくなってしまった。
次の日も、また次の日も、今まで使えていた難しい言葉の一つも思い出すどころか、
その日にノートに書き込んだことすら、夜には満足に思い出せなくなってしまう。
45: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:28:21.72 ID:9pdDfgPfo
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エミリーは四歳のとき、初めて日本語を知った。
46: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:29:31.59 ID:9pdDfgPfo
彼女と知り合い、触れ合って、すっかり仲良くなったエミリーは瞬く間にその子の魅力にとり付かれた。
そしてその子が帰国する日になり、別れ際、エミリーは泣きじゃくりながらわずかに覚えた片言の日本語でお礼を述べると、その子はこう返したという。
「いつか立派な大和撫子になって、日本に来なさい」
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