エミリーが忘れた日
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37: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 21:13:45.18 ID:9pdDfgPfo
 
「こう言っちゃなんだけど……私、あの子はもっとショックを受けると思ってた」
「ショックって……日本語を忘れちゃったことに対してか? もちろん悲しそうにしてたぞ」
「それはそうなんだけど……いえ、決していつまでも落ち込んでいてほしいわけじゃないのよ。 ただ……妙に立ち直りというか、割り切りが早いというか」

何となく言いたいことは分かる。
俺自身も最初は、この一件が彼女のアイデンティティに関わる重大な記憶喪失だと疑わなかった。
もしも俺がエミリーなら、もっと長い間ショックで塞ぎこんでしまうような気がした。

だが今のエミリーは失った日本語を新しく覚えるという、
ある意味での屈辱をあまりに異常にすんなりと受け入れてしまっている、しかもたった数日で。
本当ならもう少し拒否反応を示しても良さそうなものだ。
そう考えれば不自然と言えなくもない──そんな気は確かにしてくる。

「とはいえ事態が事態だけにな……なにが当たり前なのか、さっぱり分からない」

伊織はそのまま黙っていた。

「だけど今日の具合を見るかぎり……エミリーだって希望を感じているんじゃないかな?
 少なくとも俺だって最初のころよりは楽観的に受け止めてるよ。 この調子ならいずれ立ち直れるって」
「どうなのかしらね……考えすぎならいいんだけど」

伊織の迎えが来るまで、しばらく無言の時間が続く。
何にせよ、今できることといえばこのままエミリーを手伝い続けることだけだ。


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