146:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:26:30.69 ID:YWfCY9A20
「……ごめんなさい」
ガタンゴトン。何度目かのその音が過ぎると、沙綾は――サアヤは口を開いた。
147:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:27:21.12 ID:YWfCY9A20
無言の車内に、レールの継ぎ目を超える音。しばらくすると、それに紛れてバラバラという音が聞こえてきた。
ふたりがお互いの背後の白い光が射しこむ車窓に目をやると、そこには雨粒が当たって弾けていた。相変わらず外の様子は真っ白でうかがえないけれど、あまり天気が良くないようだ。
148:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:28:42.76 ID:YWfCY9A20
「……あなたって、本当にすごいと思う」
さあやがぽつりと声に出す。
149:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:29:38.49 ID:YWfCY9A20
「不安で不安で、きっと……耐えられなかった。私って、案外打たれ弱いんだなって思った」
「そっか……」
150:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:30:35.72 ID:YWfCY9A20
「あなたは、自分が思ってるよりもずっと強いよ」
「……そうかな。私なんかよりも、あなたの方がずっと強いと思うけど」
151:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:31:22.61 ID:YWfCY9A20
「無い物ねだりの尽きないタワゴト……なんだろうな、きっと」
サアヤはどこか懐かしむような口調で声を出す。
152:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:32:02.76 ID:YWfCY9A20
もしもそこにもうひとりの自分のような温かい陽だまりがあれば、どんなに幸せなことだったろうか。どれほど温かい気持ちになれただろうか。
朝起きて台所に行けば優しいお母さんがいて、お父さんは今日も厨房で元気にパン生地をこねている。朝ご飯の支度はお母さんに任せて、私はぐっすりと眠ってる陸海空を起こしに行くんだ。
153:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:32:36.65 ID:YWfCY9A20
「あなたのことが羨ましい。私もさ……みんなみたいに、明るい教室で授業を受けたい。もしも全日制なら……香澄ちゃんたちと一緒のクラスがいいな。それでお昼になったら、たえちゃんと合流して、学校の屋上でご飯を食べるんだ」
さあやは口を開かず、それにただ耳を傾けていた。
154:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:33:18.21 ID:YWfCY9A20
「……いいんじゃないかな」
と、そこでさあやが口を開いた。
155:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:34:06.93 ID:YWfCY9A20
「……うん、あのカスミちゃんなら絶対言うと思う」
短い期間の付き合いだったサアヤも、その姿が容易に想像できた。それから、在りし日の母にとてもよく似た、もうひとりの自分の母親に言われた言葉を思い出して、口を開く。
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