155:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:34:06.93 ID:YWfCY9A20
「……うん、あのカスミちゃんなら絶対言うと思う」
短い期間の付き合いだったサアヤも、その姿が容易に想像できた。それから、在りし日の母にとてもよく似た、もうひとりの自分の母親に言われた言葉を思い出して、口を開く。
「それなら、あなたももっと素直になるべきだよ」
「そうかな? 私、最近はかなり素直になったと思うよ?」
「ううん、全然。だって、言ってたよ? その……お母さんが」
私も『あなたの』と付けるべきだろうか。少しだけ迷ったけど、さあやが伝えてくれた父の言葉に従うことにした。気を悪くしちゃうかな、とちょっとだけ不安になったけど、さあやはサアヤの言葉を聞いて、なんでもないように首を傾げていた。
「母さんが?」
「……うん。『最近はちょっとマシになったけど、それでも全然足りてないのよ』って。『だからもっとわがままを言いなさい』って」
「そうなんだ……。案外、自分のことって見えないものなんだねぇ……」
「でも、今はよく見えるよ」
「確かに」
お互いの姿を、鏡を見るように見つめ合う。そうすると自分のことがよく見える。
わがままを言わずに自分の気持ちを押し殺した時。その時の顔はどこか寂しげというかなんというか、もしも自分の大切な人たちがそんな顔をしていたら、絶対に放っておかないだろう表情だ。
そっか、私はいつもこういう顔をしてるんだ……。
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