【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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6: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:43:44.12 ID:khuu0cd90
「……いいですね、あれ」

 そんな言葉が口をついた。

「ふゆも、そう思います」
以下略 AAS



7: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:44:34.08 ID:khuu0cd90
「……でも、ふゆは、アイドルも虚像なんじゃないかと期待しちゃうんです」

 虚像、彼女はそう言った。それは一体どういう意味を持った言葉だったか。それを脳内から引っ張り出す前に、私の口は勝手に動き出していた。それよりも、もっと気になる言葉があったのだ。

「期待、ですか」 
以下略 AAS



8: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:45:23.61 ID:khuu0cd90
 絶句した。今度は、言いたいことがあるのに言えない、のではない。正真正銘、私は口にすべき言葉を失っていた。

「その眼鏡、度が入ってませんよね。この距離なら、ふゆでもわかりますよ。ファッションにも見えないので変装用の眼鏡です。メガネさんは高校生だと言っていましたから、変装が必要な高校生となると……」

 彼女は楽しげに言う。もう楽しげに言えている。糾弾するような響きは一切ない。謎解きゲームで遊んでいるかのように、その相手である私を楽しませようと努めていた。
以下略 AAS



9: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:46:15.37 ID:khuu0cd90
 虚像とアイドルと、どんな時も泳ぎ続ける魚。そこに何となく、アスファルトに擬態した水たまりを混ぜ込んだところで、その四つのワードが私に一つの仮説を与えた。

 ……つまり、虚像のアイドルは、虚像のままで泳ぎ続けないといけないと。一度キャラクターを作ってしまえば、寝ても覚めても、そのキャラクターから逃れることはできないと。彼女は、そう言いたいのかもしれない。

 でも、それは……
以下略 AAS



10: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:47:13.21 ID:khuu0cd90
 人で最も賑わっていた繁華街の中心地。そこから徒歩で五分くらいの、値段が手ごろな飲食店がひしめく大通り。私が立っているその場所は、地理的な意味でも岐路だった。

 大通りをこのまま真っ直ぐ進めば、ビル街を経由して、十分程度で駅に着ける。対して、大通りを外れて路地を行けば、そこから三分ほどの時間を短縮することが可能だった。

 私は、迷わず路地に入る。
以下略 AAS



11: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:48:47.76 ID:khuu0cd90
「そんな、大丈夫ですよ。ぜーんぜん痛くありませんから」

 手を二回ほど開閉させてから、やはり彼女は笑みを浮かべた。気がついてしまえば、ぎこちない笑顔。

 それは、やんわりとした、ある種の『拒絶』だ。あらゆるものを拒絶しているわけではない。ただ、自身の本質に立ち入ろうとするものを排除しようとする笑みだった。
以下略 AAS



12: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:49:56.32 ID:khuu0cd90
「……心配、しますよ。当たり前のことです」

 だからといって、言葉の上でも同じことをするわけにはいかなかった。私は震える声を絞り出す。

 彼女の声が、心なしか低いものに変わった気がした。
以下略 AAS



13: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:50:58.21 ID:khuu0cd90
 右足。左足。右足。

 三歩あるいて、彼女もまた立ち止まる。私は慙愧の念を告げると同時に、既に歩けなくなっていた。

 自分の髪と肩が濡れていく。雨は変わらず冷たいまま。そういえば、傘は彼女が持っていたのだったと、私は他人事のように考えていた。
以下略 AAS



14: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:52:00.45 ID:khuu0cd90
 私も、止まれなくなっていた。自らの信じる、救いのような何かに、我武者羅に突き進もうとしている。

 そのために、私と彼女の間にある唯一の交信を。言葉を、紡ごうとする。

「マスク……外す動作が綺麗でした」
以下略 AAS



15: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:53:13.19 ID:khuu0cd90
「口元を隠しているのは、不意に表情を覗かれるのを恐れているからです」

 取り繕う時間を求めているのだ。自分を見抜かれるのが怖くて、いつだって周囲を見つめ返している。

 私は逆だった。でも、知っていた。周囲から隔絶されるための壁を作りたくて、いつも音楽で耳を塞いでいたから。
以下略 AAS



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