【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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13: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:50:58.21 ID:khuu0cd90
 右足。左足。右足。

 三歩あるいて、彼女もまた立ち止まる。私は慙愧の念を告げると同時に、既に歩けなくなっていた。

 自分の髪と肩が濡れていく。雨は変わらず冷たいまま。そういえば、傘は彼女が持っていたのだったと、私は他人事のように考えていた。

「なんで……そう思うの?」

 彼女が抑揚のない声で問う。

 表情は口元しか見えていない。彼女は傘を前方に傾けて、顔の上半分を隠している。少しの間、自分が濡れてしまうことはどうでもよかったけれど、そうされるのは悲しかった。

 でも、問われたからには答えよう。

「……そんな指で傘を持とうとするなんて、おかしいです」

 傘を持つ指だけが、くっきりと見えている。

「おかしくない。身長が高い方が傘を持つのは当たり前のこと、ですよね」

 彼女は即答した。

「……そんな指になるまで、傘もささずに雨の中にいるなんて……変、だと思います」

 赤く腫れあがった指は、やっぱり痛々しい。

「昔の友人とちょっと話がこじれて、感傷的な気分になっていただけ。変かもしれないけど……大したことじゃない」

 彼女は断言した。

「私には……そう思えないです」

 切りそろえられた髪型も、品のいい服装も、彼女がそれほど真剣に、容姿に気を配っているのかを雄弁に語っていた。

 そんな彼女が、それらがどうでもよくなって、雨に打たれるままになっていた。彼女をそんな風にしてしまうことが、『大したことじゃない』わけがない。

 私には知る権利はないけれど、推測することも許されないけれど、辛い何かがあったことは、のたうつくらいに痛く伝わっている。

「何も知らないのに、勝手なこと言わないで……ください」

 それなのに彼女は、それでも彼女は、口元だけで笑おうとしていた。



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