20:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:03.98 ID:M4jexkrI0
きっかけなんてとっくのとうに忘れたけど、おねーちゃんはギターを始めた。カッコよかった。正確な音を刻み、凛々しい佇まいに感嘆のため息を何度も吐き出した。
その隣に立ちたい。隣に並んで、一緒のことをやりたい。昔から何も変わらない行動原理に基づいて、あたしもギターを始めた。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:32.58 ID:M4jexkrI0
おねーちゃんがギターに触らなくなったのに気付いたのは、高校二年生の時だった。
「どうしたの?」と聞いても、何も答えてくれなかった。ただ暗い顔であたしを一瞥して、それから部屋に籠ることが多くなった。
22:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:59.08 ID:M4jexkrI0
その日から何もかも分からなくなった。
どうして。
23:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:11:44.85 ID:M4jexkrI0
考えても考えても分からなかった。おねーちゃんはもう何も言ってくれない。あたしに笑いかけてくれない。
ひとりの部屋で一向に答えへ辿り着けそうにないことを悩み続けた。そうしていると、おねーちゃんがどうして旅立ってしまったのかは分からないけど、あたし自身がからっぽになったことだけは分かった。
24:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:12:19.64 ID:M4jexkrI0
生きていく場所は、氷川紗夜を知っている人間が誰もいないところであればどこでもよかった。だから新幹線が停車した駅が綺麗だったからという理由だけで、あたしは仙台で、氷川紗夜として暮らそうと決めた。
その暮らしでまず一番に感じたのは、お金の力は偉大だということ。
25:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:12:56.45 ID:M4jexkrI0
仕事にもおねーちゃんの思考にも慣れたころ、休みの日にボーっとテレビを眺めていると、パステルパレットの解散特集が組まれていた。
彩ちゃんが号泣していた。
26:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:13:29.06 ID:M4jexkrI0
◆
「おねーちゃん、もうこの世にいないから」
27:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:14:29.61 ID:M4jexkrI0
「日菜ちゃん、あなたのやっていることは……無駄なことよ」
そんなこと考え出したところで、千聖ちゃんは言葉を吐き出す。「そうかもね」と短く応える。
28:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:15:00.32 ID:M4jexkrI0
「ごめんね。それは無理なんだ」
「っ、どうして……?」
29:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:15:31.74 ID:M4jexkrI0
今さらだよ。もう全部。もうおねーちゃんはいないんだ。認めたくないけど、きっとあたしのせいで、苦しんで、苦しんで、苦しんで苦しんで苦しみぬいて、空の向こうへいってしまったんだ。あたしがやるべきことなんてもう一つしかない。おねーちゃんになりきって、おねーちゃんの苦しみを味わって、おねーちゃんの気持ちを少しでも分かった振りをして、誰にも見つからない場所で消えることだけなんだ。
輪廻転生。生まれ変わり。因果応報。全部ザレゴトだけど、神様なんていないけれど、あの小説に書いてあったことがもしも起こるのなら、次に生まれ変わったおねーちゃんには幸せでいてもらいたいから、おねーちゃんを苦しめるあたしにあたしが止めを刺さないといけないんだ。
30:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:16:03.95 ID:M4jexkrI0
闇雲に千聖ちゃんから、あたしを追う影から逃げる。
三年過ごした見慣れた街が滲み、足早に通り過ぎていく。
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