24:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:12:19.64 ID:M4jexkrI0
生きていく場所は、氷川紗夜を知っている人間が誰もいないところであればどこでもよかった。だから新幹線が停車した駅が綺麗だったからという理由だけで、あたしは仙台で、氷川紗夜として暮らそうと決めた。
その暮らしでまず一番に感じたのは、お金の力は偉大だということ。
身元もイマイチ不明瞭なあたしだったけれど、それでもお金の信用性と魅力には人は抗えないらしい。一人暮らしをしているアパートの大家さんも、むこう五年間の家賃を、色を付けて一括で手渡したら、笑顔であたしを受け入れてくれた。
それから勤め先を探した。
おねーちゃんならどんな仕事をするだろうか、と思って、おねーちゃんが塞ぎ込むようになってからよく詩集を読んでいたな、という思い出から書店に勤めようと決めた。
そしてアパートから歩いて三十分の書店の採用に応募して、きっとおねーちゃんならこういう志望動機を喋ってこういう風に抱負を語るだろうな、という風に面接に臨んだら、あっさりと合格した。
やっぱりおねーちゃんはすごいな、としみじみ思ってから、こんな風に考えてちゃいけないかと思い直した。何故なら今のあたしは……「今の私」は氷川紗夜だから。
最初は苦労した暮らしも、ひと月で板についた。おねーちゃんならこうするだろう、ああするだろうというのはもう考えなくても実践できるようになった。でもおねーちゃんの気持ちは分からなかった。
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