25:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:12:56.45 ID:M4jexkrI0
仕事にもおねーちゃんの思考にも慣れたころ、休みの日にボーっとテレビを眺めていると、パステルパレットの解散特集が組まれていた。
彩ちゃんが号泣していた。
千聖ちゃんは気丈に振る舞っていた。
イヴちゃんは見たことがない沈痛な顔だった。
麻弥ちゃんは泣くのを我慢していた。
それを見て、胸がものすごく痛くなった。人生で初めて感じた痛みだった。
それからはパステルパレットという言葉を意識して避けるようにした。もう氷川日菜は氷川紗夜として生きるって決めたんだから、見たって仕方のないことだ。
そうやって氷川日菜の要素を可能な限り排除して、おねーちゃんになりきった。だけど、やっぱりおねーちゃんの気持ちはいつまでも分かりそうになかった。次第に自分はなんてちっぽけな人間なんだと思うようになっていった。
天才だ。
あたしを見た人間は口を揃えてそう言う。
だけど、あたしは一番大切な人間の気持ちすら分からない、ちっぽけで矮小な人間なんだと思い知らされた。昔は簡単に分かったおねーちゃんのことにも自信が持てなくなった。
いつしか透明な壁が目の前に張っているような気持ちになった。
きっとその透明な壁の中にはおねーちゃんがいるんだ。そしてあたしをジッと見つめているんだ。「あなたに私の気持ちが分かるの?」って問いかけてきてるんだ。
そう思うと、段々怖くなった。紺色のギターに向き合うことも、透明な壁に向き合うことも。
おねーちゃんの本当の気持ち。知りたいけど、それを知ったらいけないような気がした。でも、知らなきゃきっとおねーちゃんは永遠にあたしを許さないだろうと思った。
そうしているうちに季節はどんどん過ぎていって、些細な思い出たちが日常に潰されていって、向き合わなきゃいけないことからも目を逸らしているうちに、偽りの氷川紗夜は氷川日菜の影に追いつかれる。
それがきっと今なんだろうな、と思った。
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